第111話 第一〇二四哨戒隊 その2
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明らかに変わる。
「『おくり酒』ならこれくらいが丁度いいだろう?」
「確かに」
俺の横でビューフォートが、俺がやっと聞き取れるくらいの小声で呟く。『おくり酒』とは僚艦が撃沈した時、生き残った他艦乗員が手向ける酒のこと。まだ飲酒に関しての規則が緩い時代、特に部隊間に強い結束力が求められた、長期遠征任務に就いていた小部隊で語り継がれる因習だ。僚艦の艦名と識別コードが打ち込まれたドックタグを下げた『未開封キープボトル』の並びはいつ見ても壮観だったと、マーロヴィアの営倉にいたバーソンズ元准将は懐かしそうに話していた。
なお各艦に配備される酒の代金は『隊司令』か『最先任艦長』が支払うのがルールで、これはは絢爛たるダゴン星域会戦後にリン・パオが首都星に送った祝杯のシャンパン二〇万ダースが変質していたものと思われる。
ちなみに現在の制式艦隊ではこの因習は廃れていて(一万三〇〇〇本もの酒を全ての艦の酒保にはおけないから当然だ)、個人的なレベルでの献杯に留まっている。爺様もモンシャルマン参謀長も間違いなくこの因習は知ったいただろうが、第四四高速機動集団ではやらなかった。
「一分隊三番、戦艦アーケイディア艦長のジョン=ガーリエンスです。好きな酒はハイライフ社のドラフト・ライトなんですが……」
それは低所得者層向け格安ビールの定番。もちろん瓶詰めが無いわけではないが、キープボトルとして並べるにはあまりにも場違いで、俺もビューフォートも他の艦長達も笑いを隠せなくなっている。
「一分隊四番、戦艦グアダコルテ艦長のロマナ=スリフコヴァーですわ。好きなお酒はアクタイオン・アスコナのアガベ・エクストラ・アネホ一八五〇。ボロディン司令、ちゃんとご用意してくださいね」
第一分隊唯一の女性艦長。俺より一回り年上のスリフコヴァー中佐の自己紹介で、会議室は笑いが止まらない。格安ビールから最高級テキーラ。値段だけで三〇〇倍を超えるし、それを三〇本用意しなければならない俺の財布は間違いなく火の車だ。俺の頭の中にラージェイ爺の顔が浮かばずにはいられない。
「一分隊五番、戦艦ハストルバル艦長のアル=シェブルです。私は酒が飲めないのでバラ水でお願いしたいが、部下達には別の良いものを用意してくれるとありがたい」
そうかといえば宇宙に出てもそういう戒律を厳格に守る人もいる。会議室の笑いは収まるが、アル=シェブル少佐を小馬鹿にするような態度を取る人間はいない。
これだけ見ればここにいる艦長達の『質』はわかる。よくいる捻くれた『DummyBoy』達 ではない。もしかしたら『誰か』が差配してくれたのかもしれないが、今は取りあえず運が良かったと言うべきだろう。ならば、と俺はアル=シェブル艦長に話を振る。
「了解した。正直バラ水を買ったことがな
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