第一章
[2]次話
今も残る封建主義
冲田倉治、七十を過ぎた皺だらけの眉が太く長方形の顔をした角刈りの老人は忌まわしく魔窟東京ドームの傍のもんじゃ屋で言った。大工をしていたが今は隠居している。
「来年はヤクルトだ」
「いや、やばいぞ」
彼の旧友である住友郁夫が応えた、やはり皺だらけの顔で髪の毛はもうなくなっている。卵型の顔である。
「二年連続五位だぞ、しかもだ」
「昨日もか」
「あそこに負けただろ」
そのドームの方を指差して言った。
「残念なことにな」
「それはそうだがな」
冲田も渋々認めた。
「オープン戦だからな」
「それでも負けだからな」
「秋のそれでもか」
「深刻だぞ」
「ヤクルトはか」
「俺もお前も東京生まれでな」
住友は自分達のことを話した。
「それでな」
「東京で育ってな」
「東京で生きて働いてな」
そうしていってというのだ。
「家庭も持ってな」
「今は隠居だな」
「だからこうしてな」
昔ながらのもんじゃ屋の中で鉄板の席を挟んで座布団の上に座って向かい合ってもんじゃをサイダーと一緒に楽しみつつ話す。
「昼にもんじゃ食ってるな」
「サイダー飲んでな」
「ああ、それでずっとヤクルト応援してきたな」
「当たり前だろ」
冲田は自分達がヤクルトを応援することをそうだと言い切った。
「俺達は江戸っ子だ」
「ちゃきちゃきのな」
「江戸っ子は野球は何処だ」
「ヤクルトに決まってるだろ」
住友も言い切った。
「もうな」
「そうだな」
「チームの曲は東京音頭だぞ」
「そしてずっと東京にいてな」
「本拠地は神宮だ」
「だったらな」
「ヤクルト一択だろ」
住友は言い切り続けた。
「もうな」
「そうだよ、昔は東京オリオンズあったけれどな」
「今のロッテだな」
「あそこはもう千葉にいったしな」
「東京球場なくなったしな」
「そうなったからな」
冲田はそれでともんじゅを食べつつ言った。
「あそこはな」
「置いておくな」
「それで巨人はな」
「癌だ」
住友は忌々し気に言った。
「球界どころか日本のな」
「本当にそうだな」
「あんなチームを応援するなんてな」
「俺達はしないからな」
「生まれてこのかたな」
「もうお互い七十超えたけれどな」
それでもというのだ。
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