遭遇する姉
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花の乙女を、こんな、欠片まみれにしてくれちゃって、どうしてくれ…欠片?
あたしはふと、むっとするような花の香りととろりと顔から滴ってくるものに気づいた。怒りも忘れて、一気に青くなった。ここここ、ここ、壺売りじゃなくて、まさ、まさか…中身、入り?
「おにいちゃぁ〜ん」
厳つい声がして、ぽん、とあたしの肩に手が置かれた。びくりとあからさまに肩が震える。
「いやぁ、若いからさぁ、ついね、衝動的に、こう、売っている壺にアクロバティックに飛び込みたくなる気持ちもおじちゃんわからなくもないよ?でもねぇ、自分がしでかしたことの責任はとらなきゃぁねぇ。石飴って、聞いたことあるかなぁ?」
い、し、あ、め…!
あたしは危うく卒倒しそうになった。そんな高級品、こんな露天で出してるんじゃないわよー!
石飴というものは、主に温暖で花が沢山咲くアラニア地方の特産品であり、甘く薬にもなる天然の花蜜だけれども、採取方法が特殊なため、とっても高価なものだ。蜜蜂という毒虫が巣に溜め込んだ蜜をとってくるという死人も出るぐらい大変な採取作業で、アラニアでは公認の「石飴とり」がいるぐらいだ。
上流階級になると、食べずに肌にすり込んで若さを保つという話は聞いていて、都はすごいなぁあたしもそんなことができたらなぁとぽーっとしていた、のに!
今全身夢の石飴塗れだけど、嬉しくない、ぜんっぜん、嬉しくない!肌がつるつるになっても、首が飛んだら意味ないのよー!
もうどれくらいの壺を割ったのかなんて考えるだけで頭がくらくらするし、ましてや弁償なんて、できるわけないじゃないー!
「あ、あは」
とりあえず笑ってみた。目の前の厳ついおじさんもにっこり。手には血管がびきびき。お、怒っていらっしゃる…?
「ち、違うんです!あの、あいつが、あいつが悪いんです全部!」
「どいつ?」
「あいつ…あれ!?」
あたしの指さす先には馬に踏み荒らされた商品を片付ける向かいの商人だけ。馬も男も影も形もない。
逃げやがった!最低野郎!
「い、いやおじさん見たでしょ!?なんかいきなり男の人が、馬が、棒が…」
「んーいやぁ見てないねぇいきなりきみがおしりからおじさんの店に飛んできたところしかねぇ」
突如としておしりから店に飛びこんでいく人間なんているわけないでしょ!ハイテンション過ぎるわ!常識的に考えてよおじさーん!
「それに」
おじさんはまたにっこりと笑った。
「きみ、女の子だったんだね」
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