第二章
[8]前話
「食っているんじゃないのか?」
「工場の中でか?」
「あのハイカラな」
「そうだっていうのか?」
「その実は」
「ああ。麦は食うだろ」
だからだというのだ。
「それでな」
「工場で造ってるのじゃなくてか」
「食ってるのか」
「あのとんでもない量の麦を」
「実はそうしているのか」
「だから造られたものは出ないんだろ」
工場に運び込まれてもというのだ。
「だからな」
「そういえばそうだな」
「本当に造られたもの出て来ないからな」
「それじゃあな」
「造られていなくてな」
「食ってるのかもな」
「そしてその食ってるのはな」
神妙な顔で話されるのだった。
「あれだけ多いと人間じゃないだろ」
「獣でもないな」
「あれだけ多いとな」
「普通の獣じゃないな」
「熊や猪でもあそこまで食わないな」
「動物園の象でもか?」
「バケモノが食ってるんじゃないのか」
かなり本気で言われた。
「これは」
「そういえば工場でウイ何とかとか言ってるな」
「それがそのバケモノか」
「本当にバケモノがいるか」
「それであれだけの麦を食っているのか」
「そうじゃないか」
こうした話も出た、何時しかそのバケモノはウイ何とかという工場での会話からウイスケという名前になった、その姿は色々言われたが。
その噂を聞いてだ、竹鶴は笑って言った。
「あと少しでわかるからな」
「工場の真相が」
「ああ、もう充分寝かした」
その工場の中で妻に話した。
「だからな」
「ウイスケが実は何か」
「ああ、わかるからな」
こう話してだった。
遂に数年寝かしていたウイスキーを出荷した、それを見て地元の者達はわかった。
「酒を造っていたのか」
「麦で造った酒か」
「ウイスキーっていうのか」
「ウイスケっていうバケモノじゃなくてか」
「英吉利の酒だったんだな」
ようやく真相がわかって驚いた、それでだった。
その酒を買って飲むと美味くさらに驚いた、こうした酒もあるのかと。
これが日本初の本格ウイスキーである、これがサントリーウイスキー白札である。竹鶴は後に北海道余市でニッカウヰスキーを生み出した、日本のウイスキーの歴史はこうして生まれたのだった。だが。
北海道でだ、竹鶴は妻に笑って話した。
「北海道にはウイスケはいないな」
「ウイスキーがあってね」
「こちらにはいなかったな」
こう言うのだった、そうしてそのウイスキーも売ったのであった。
ウイスケ 完
2024・6・13
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