第一章
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服はボロボロでも
父の中村為蔵にだ、翔は言われた。
「服装だけじゃないんだ」
「人はか」
「そうだ」
こう言うのだった、面長で眼鏡をかけ黒髪をセットした痩せた長身の自分の若い頃をそのままにした外見の息子に。
「それではな」
「判断出来なくてか」
「他のものも見るんだ」
人はというのだ。
「服が粗末でもな」
「それでもか」
「清潔だったらな」
それならというのだ。
「違うだろ」
「ああ、身体や髪が奇麗なら」
翔もそれならと応えた。
「毎日風呂に入っていて」
「それなりの暮らしをしているな」
「そうだよな」
「そして服自体はボロボロでもだ」
そうであってもというのだ。
「洗濯していて奇麗ならな」
「わかるか」
「そうしたものも見てだ」
そのうえでというのだ。
「仕事をするんだ」
「ぱっと見ただけじゃわからないか」
「ああ、それにな」
「それに?」
「じっくりと話もしないとだ」
客と、というのだ。
「わからないからな、少なくとも一目見ただけでな」
「判断しないことだな」
「そうだ」
絶対にというのだ。
「いいな」
「わかったよ」
父はそれならと応えた。
「俺もな」
「お前は会社を継ぐからな」
「そうしたこともわからないと駄目だな」
「そうだ、いいな」
「わかったよ」
父の言葉に確かな顔で頷いた、そうしてだった。
彼は父の会社の営業職で働いていった、父が言ったことを忠実に守り真面目に働いていたがその中で。
タワーマンションの最上階の契約にだ、小学校から大学まで一緒だった斎藤義経が来た、穏やかな顔で黒髪を短くしていて痩せていて背は一七〇位だ。
その服は何年着ているかわからない文字通りボロボロのものだった、彼はまず義経に対してこう言った。
「まさかうちに来るなんてな」
「ああ、元気そうだね」
「お互いな、それでお前がか」
「うん、そのお部屋にね」
会社の中で向かい合って座って話した。
「入りたいんだ」
「わかった、じゃあな」
「うん、お話していこう」
「ああ、しかしお前今何やってんだ」
かつての友人に問うた。
「仕事は」
「ラノベ書いてるよ」
「ラノベ?」
「小説だよ、それが売れて漫画になってアニメ化して」
「それでお金あるんだな」
「趣味の投機も成功してね」
このこともあってというのだ。
「それで引っ越すんだけれど」
「そうか、こっちはちゃんとお金を支払ってくれてな」
翔は義経に笑って話した。
「契約出来たらな」
「それでいいんだ」
「そうだからな」
「いや、実は服がこれだからね」
義経は笑って話した。
「スーツだけれど」
「古いっていうんだな」
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