第110話 第一〇二四哨戒隊 その1
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今でも文通してますよ、などと言ったらキャゼルヌは笑うだろうか。それとも呆れるだろうか。だがこれもまた『話せないこと』だ。
「そういう変なところで馬鹿なのは一体誰に似たんだろうな……まぁいい。俺の言ったことを嫌がらず、少しはその薄金髪の頭の片隅に入れておいてくれ。それと、これはお望みの品だ」
そう言ってキャゼルヌはテーブルの上に置いた薄い本革のサイドバックを開けると、中から一枚の履歴書を取り出して俺に差し出した。
「唯一人の司令部要員に、優秀な若手士官という贅沢なご希望を伺ったからな。それなりの人間を見繕ってみた」
自信満々と言った表情で差し出される履歴書に俺は目を通し……名前と写真だけ見てすぐに押し返した。
「チェンジで」
「……は?」
「チェンジで」
今一度キャゼルヌの顔に向け履歴書を押し返すと、落ち着けと言わんばかりに右掌を俺に向けてくる。
「彼女の何が不満だ。専科学校卒で実戦経験があり、輸送艦の航海長も務めている。航法士官としての能力に優れ、なによりお前さんと面識がある。知人のいない辺境勤務におけるお前さんの副官としてうってつけだろうが」
キャゼルヌが言うのも尤もだ。問題だらけな職場であっても、僅かであれ面識がある人間が居れば安心感が違う。その上で実務能力があれば言う事なし。履歴書を見るまでもなく俺は彼女の『能力』についてはあまり問題にしていない。むしろ信用できる。だからこそ……
「どういう面識か、彼女本人に直接聞いた上でそう言っているんですか?」
「面識の内容まではプライベートに関わるから聞いていない。だがカーチェント准将の推薦状を持っていて、准将にも直接再確認しているし、本人も勤務を希望している」
「私が上官になることは、ちゃんと伝えてあるんですか?」
「当然だろう。たいそう喜んでいたよ。まさかあれが演技だっていうのか……」
俺から押し返された履歴書を手に持ちながら、キャゼルヌは唖然とした表情を浮かべている。どういった面接状況だったかは分からない。だが現実として俺が彼女に対して好意的になる理由も、彼女が俺に対して好意的になる理由も、存在はしないように思える。
撓んだ履歴書から覗く、イブリン=ドールトン『中尉』の同い年とは思えぬ若さのある端正な顔を見ながら、カーチェントの奴がまた何か余計なことを企んでいるのではないかと、俺は考えざるを得なかった。
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