第110話 第一〇二四哨戒隊 その1
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あろう」便利な俺を出世させて、軍の中核に送り込んで『植民地総督』にしようとしている。実戦部隊の指揮能力をそこそこ有し、後方勤務もそこそここなせる、スペシャリストではなくユーリティーな軍人として。
「まぁ、いいさ。誰にも話せないことなど、世の中には幾らでもある」
想像はしただろうが理解したかは分からない顔でキャゼルヌはそう応える。本来シトレ派にあって、後方勤務の現状をよく知るキャゼルヌがその役割を担ってもいいはずだが、やはり突出した能力と筋の一本通った信念と反骨精神旺盛で毒舌家という面で、軍上層部だけでなくトリューニヒトら政治家の側からも敬遠されているのだろう。自己主張しても排除されない突出した有能さというのは羨ましいが、そんな才能のない俺には到底マネできない。
「仰る通りです。シャルロットちゃん、可愛いですもんね」
「お前、今後ウチ出禁な。酒を持ってきても二度とウチの敷居を跨がせないからな。覚悟しとけよ」
話題の転換の必要性から軽口を言ったつもりだったがどうやら琴線に触れたみたいで、右眉を上げて指差すキャゼルヌに俺は肩を竦めるしかない。
結局、キャゼルヌが結婚してから官舎に夜襲を仕掛ける機会がなかったため、昨年シャルロット=フィリス嬢は見事に誕生した。ウィッティから連絡を受けてオムツ一〇ダースを郵送で、ブランドメーカーのベビーパウダーとコットンウェア&タオルのセットをイロナとラリサに託して、それぞれキャゼルヌ家に送り込んだ。
そして二人がキャゼルヌ宅で見たのは、普段のキャゼルヌからは想像できない親バカぶりだったそうで……イロナは少なからず衝撃を受けたと留守電に報告が返ってきた。
「なにお前さんも結婚して、親になって見ればすぐにわかるさ」
空になった紙コップの把手に指を入れて廻しているキャゼルヌの顔は、只の親の顔ではない。
「真面目な話、来月には前線にいるお前さんに言うのもなんだがな。お前さんは早いうちに結婚すべきと思う。正直言って、お前さんの勤務実態や滅私奉公ぶりを噂で耳にするに、自分の命の価値も分からず、自己保身も考えず、ただただ生き急いでるとしか思えん」
「もちろん結婚は考えたことはありますよ。出来なかっただけで」
「赤毛のフェザーン女だろう。いつまで初恋を引き摺っているつもりだ」
「引き摺ってちゃ悪いですか?」
俺の目が細くなったのを見たのか、それ以上に声から僅かに漏れた殺気を感じたのか、それとも俺の右手にいた紙コップが断末魔を上げたのを耳にしたからなのか、キャゼルヌはしまったといった表情を一瞬浮かべたが、数秒目を逸らしただけで元に戻る。
「戦争が終わらない限り、お前さんの希望は叶わない。それは流石に分かっているんだろう」
「理解はしてますよ。納得してないだけですから」
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