第110話 第一〇二四哨戒隊 その1
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だからな。事前に店に連絡しておけよ」
よくわかったと言わんばかりの、キャゼルヌの皮肉が籠った表情に、俺は肩を竦めて応える。
「ちなみにどんな人がシトレ提督のところに来るんです?」
「大抵はおせっかい焼きと功名餓鬼と言ったところらしいが、大物だとロボス提督も来たそうだ」
「ロボス提督が?」
意外といえば意外だ。次期要職候補の二人で、誰もが知るライバル関係にある。それに二人を比較して器量に乏しいと言われているロボスの方からシトレを訪ねるというのも、だ。
「ああ。応接したマリネスクの奴、お前さんの話題がロボス提督の口から出たことに、レモンを生で齧ったような顔をして零してたぞ。『スーツ(政治家)の下で隠れて動くネズミに何ができる』ってな」
「まぁ……そうでしょうねぇ……」
因縁、という程ではないが、カプチェランカ星系会戦においてマリネスク准将とは、散々心温まる交流に明け暮れた。マリネスク准将はシトレの部下として、俺は爺様の部下として、それぞれの立場に立って主張しただけだと思っているから、俺としては彼に個人的な恨みは抱いていない。キャゼルヌに悪態を零したのは、筋違いの嫉妬だろう。特段怒る気にもなれない。
「それでロボス提督はなんと仰ってました?」
「『あの薄金髪の孺子の得物は何かな』と意味深な言い方だった、そうだ」
「『薄金髪の孺子』ね……ははっ」
確かに今の俺はグレゴリー叔父より、やや色素が薄い髪の色をしている。恐らくは両親双方が東スラブ系の金髪で、特に母エレーナが髪も肌も色の薄い人だった。その血を受け継いでいるから確かに『薄金髪』なんだが……面と向かって言われると、色々な意味でムカつく言葉だ。脳味噌の中身は『薄い』では済まない差はあるが、苦笑いしか出てこない。
「で、だ。シトレ提督がそれに何と応えたか? お前さん、分かるか?」
小悪魔のような笑みを浮かべるキャゼルヌを前に、俺は数秒目を瞑って考えてから応えた。
「『トマホーク(戦斧)ではなく、レイピア(刺突剣)ではないか』、みたいな言葉だったのでは?」
ロボスが問うたのは、ペン(後方士官)と剣(戦闘士官)という区分けではなく、純粋に用兵術についてだろう。俺が集中砲火と狂信的艦隊機動戦原理主義過激派であることは、二人とも理解しているからあてずっぽうの回答だったが、キャゼルヌの反応は劇的だった。アニメでも見たことのない、気色悪い怪物でも見たような視線を俺に向けてくる。
「……トリューニヒトは盗聴器を各艦隊司令部に紛れ込ませているいうのは本当か?」
「まさか……え? うそ、本当に?」
「正確には『トマホークではなく、ランス(騎乗槍)ではないか』だそうだが……薄気味悪いことこの上ない。今度、俺のオフィスも少し『洗う』必要があるな……」
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