第一章
[2]次話
犬と氷
冬の神戸は寒い、それでだ。
国咲家の息子である洋介はふわりの散歩に行く前に母に言われた。
「この時間でも道凍ってるからね」
「ああ、滑らない様に注意するよ」
洋介は母の百合子に答えた。
「ちゃんとな」
「あんたもそうで」
「ふわりもか」
「ええ、やっぱり滑るのよ」
「胃の足でもか」
「そうなのよ」
「そうなんだな」
一緒に行くふわりを見つつ言った。
「滑るんだな」
「氷でね」
「滑らないと思ったらな」
それがというのだ。
「滑るんだな」
「そうよ、肉球と爪と毛でもね」
そうしたものがあろうともというのだ。
「滑る時は滑るから」
「だからか」
「注意してね」
「それじゃあな」
こう話してそうしてだった。
洋介はふわりを散歩に連れて行った、するとだった。
道は確かに凍っていた、それで洋介は滑らない様に慎重に歩いたがそれはふわりも同じであってそれでだった。
いつもよりゆっくり歩いていた、洋介はその彼女を見て言った。
「お前も滑らない様にしているんだな」
「ワン」
ふわりはそうよという感じで鳴いて応えた、そしてだった。
やはりいつもより慎重に歩く、駆けることもせずだ。
ゆっくりと歩いた、それでだった。
散歩はいつもより時間がかかった、洋介は家に帰ってからふわりの足を拭いてケージの中に入っていくのを見送ってから母に言った。
「俺もこれから仕事に行くけれどな」
「今日はいつもより時間かかったわね」
「滑らない様に注意してたからな」
だからだというのだ。
「それでだよ」
「そうよね」
「ふわりだってな」
他ならぬ彼女もというのだ。
「いつもよりな」
「慎重に歩いたのね」
「そうなんだよ」
このことも話した。
「これがな」
「ふわりらしいわね」
「滑るってわかっていて」
道が凍っていてだ。
「慎重に歩いたよ」
「頭のいい娘だからね」
「ああ、わかってたよ」
そうしたことがというのだ。
「本当にな」
「そうよね」
「ああ、けれどな」
「けれど?」
「いや、ふわりって元気な娘だろ」
洋介は今度はこのことを話した。
「だからな」
「お散歩の時も動きたがるわね」
「それで今日の散歩は慎重に歩いたから」
だからだというのだ。
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