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レンズ越しのセイレーン
Mission
Mission5 ムネモシュネ
(6) トリグラフ中央駅(分史)~チャージブル大通り(分史)
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 再び列車に乗ってトリグラフ中央駅に戻ると、ジュードとレイアがターミナルで待っていた。ローエンとエリーゼが後で合流することはすでに電話で伝えてある。

「街のほうはどうだった?」
「……街も人も、僕らの世界と変わらなかった。ただ、リーゼ・マクシアの存在を誰も知らないんだ」
「でも、それ以外は、全然同じように人が暮らしてるんだよ。陸も海も空も、ずっと繋がってて……この世界を壊すって、つまり……」

 レイアのパロットグリーンの瞳は怯えと不安で染まっている。

「怖気づいた?」
「そ、そんなんじゃ…!」
「おい、ユティ」
「アルフレドも。この際だから言う。ここを壊す、イコール、ここの生き物全部殺すこと。時歪の因子(タイムファクター)を壊すのと、ここの人たちを何万人も一人一人縊って息の根を止めていくのはまったく同じ行為」

 父親を刺殺した瞬間を思い出す。それがクルスニクの者なら等しく味わうものなのか、それとも「鍵」特有の感知かは分からない。あの崩壊の瞬間、ユティの手には何千何万という命を屠殺した手応えがあった。その中には、母も、敬愛する二人の男も含まれていた。

「ワタシは、どっちであっても、できる」

 するり。ユティはレイアの首に両手を当てる。レイアの体が跳ねた。
 このまま縊れるか、と自問し、縊れる、と自答した。ユースティア・レイシィはそう在るよう育てられた。

「アナタたちは? できないの?」
「――そこまでだ、ユティ」

 ルドガーがユティの手首を掴んでひねり上げた。ぎりぎりと食い込む指。骨が悲鳴を上げている。

「レイアたちは気にするな。一緒に来てくれただけでも感謝してる。ここから先はクルスニクの問題だ」
「気にするなって…」

 ルドガーは答えず、ユティの手首を掴んだまま歩き出した。


 ルドガーはずんずん進んで行く。若い男が小さな女を強引に連れ歩くように見えなくもないシチュエーションは、通行人の目を引いた。だが、ルドガーもユティも気にせずトルバラン街道への道を歩いて行った。

「さっきみたいな悪趣味なやり方はよせ。試すにも限度がある」
「ワタシのやり方、間違ってた?」
「最悪の間違い方だ。あとでレイアに謝れよ。びびらせて悪かったって。――もっとも、付いて来たらの話だけどな」

 ルドガーは哀笑し、ようやくユティの手を離した。
 カーディガンの袖をめくると、手首にはくっきりと五指の形の青痣ができていた。ユティはすぐに袖を戻して痣を隠した。

「エルとジュードとレイアとアルフレド、付いて来ないと思ってる?」
「突き放した言い方しちまったからな。ひょっとしたら嫌気が差したかもしれない」
「世界の破壊に?」
「俺自身に、だよ」
「あの時はルドガーの人間性の話はして
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