第3部
サマンオサ
サマンオサの夜明け
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ことはなかった。広い寝室に残された私たちの間に、微妙な沈黙が流れる。
「あーあ、陰険勇者のせいで拗ねちゃったぜ、あいつ」
重い沈黙をぶち壊すかのように、ナギが皮肉交じりに言い放つ。そんな彼の皮肉にも、ユウリは全く動じてないようだった。
「ふん、どうでもいいな。それより鈍足、変化の杖はどうした?」
『どうでもいい』という言葉にカチンとしつつも、私はいつの間にか手に何も持っていないことに気づく。
「あれ? どこに置いたっけ?」
辺りを見回すと、すぐ近くに杖は落ちていた。そういえばルークの手を握るときに、一度手放したんだっけ。
「この杖、きっとエドが作ったアイテムなんだよね。元の姿に戻りたいって言ってたし、返さないといけないね」
三賢者でありこの杖の元々の持ち主であるエドは昔、ボストロールにその杖を奪われてしまい、さらにその杖で馬に変化させられてしまったのだ。以来ずっと馬の姿のまま、半ば人間に戻ることを諦めていた様子であったが、この杖を渡せばきっと喜ぶに違いない。
「ああ。この件が落ち着いたら、一度スーに行こう」
「ねえねえ! 一件落着したんだから、そのエドって子のこと教えてよ!」
シーラが興味津々で尋ねてくるので、私は端的に説明した。三賢者と聞いたとたん、シーラの鼻息が急に荒くなった。
「ええっ!? お祖父様のほかにも三賢者が!? しかも馬!? 何それ超会いたい!!」
どうやらシーラも乗り気のようだ。ジョナスにも久々に会いたいし、サマンオサを出たらすぐにスーに向かおう。
「なあ、ところでいつまでここにいるつもりだ? 早く本物の王様のところに行こうぜ」
そうだった! ナギの言う通り、というボストロールを倒したことを、王様に伝えなければ!
かくして、深夜の戦いは私たちの勝利で、幕を閉じた。まだ夜明けにはほど遠い時間だが、ようやくこの国に光が射すようになったのだ。
「殿下を騙る魔物は倒しました。もうあなたを苦しめる者はいません」
私たちは、再び本物の王様がいる牢屋まで戻り、ボストロールを倒したことを伝えた。その知らせを受けた王様はベッドから起き上がると、歓喜のあまり咽び泣いた。
「そうか……。魔物を倒してくれて、本当にありがとう……。そなたたちのおかげで、再び玉座に就くことが出来た。……改めて礼を言わせてくれ」
長年暗く不衛生な牢の中にいたせいで手足は痩せ細り、顔も土気色に染まっていた王様だったが、その瞳には一筋の光が灯っていた。
「殿下。玉座にお戻りになるのならば、私どもが最大限の手助けをいたします。何なりとお申し付け下さい」
「いや、これ以上そなたたちの手を借りるわけには行かない。このことは私自ら国民に説明する。魔物との戦いで疲れただろう、今日はゆっくりと休み、また城に来て礼をさせてくれ。本
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