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くらいくらい電子の森に・・・
第四章 (2)
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胃の下辺りで、ぞくり、と冷たいものが蠢くような悪寒が走った。そういえばこの辺りを気の集まる場所、『丹田』とか言ったかな…そこに嫌な『気』が一斉に押し寄せてきたような感覚。僕の危機回避センサーが『やばい、関わるな、逃げろ!』と叫んでいる。
「場所の特定は、引き続き俺がやる。お前には、別方向から奴の動向を探って欲しい」
「…IPアドレス追跡以外に、場所を特定できる方法があるの?」
「いや、場所は特定しろとは言わない。ネット上で、奴のMOGMOGを探してくれ。MOGMOGの状況が確認できれば、失踪…もしくは誘拐の目的が、多少なりとも分かるかもしれないだろう」
「そんな!無茶だ、雲をつかむような話だよ!!ネット上にサイトがいくつあると思ってるの。偶然同じサイトに行きあうなんて、ありえないよ」
「本当に、そう思うか?」
「……あ」
……そうだ。
ネットを使う人間なら、ほぼ確実に経由するサイトがあるじゃないか!!

『yahoo!』か『google』だ。

「僕の仕事は、yahoo かgoogleでの常時張り込み…か」
「その通りだ。あと、聞き込みと追跡も頼む。やり方は、わかるな」
微かに笑って珈琲カップを口に持っていく。あれ、さっき飲み干してたのにな、と思って見ていると、やっぱり一滴も入っていなかったらしく、再度手を上げて珈琲を追加注文している。…僕たちは何をしているんだ。男二人でスフレ屋で待ち合わせて、あまつさえスフレを食わないで珈琲ばっかり2杯も3杯も追加注文して。
これでは店に申し訳ない。自腹でスフレを頼もうかと一瞬逡巡したけれど、紺野さんのあごに残った無精ひげをみていると、どうしても目の前でスフレを食う気になれず、静かにメニューを片付けた。
「…さっきの、『MOGMOG視覚化ツール』を使うんだね」
「若者は察しがいいねぇ。スパイウェアのアンインストーラーと一緒に送っておこう。説明書も付けておくから、適当に読んで対処しろ」
「うわ、超なげやり」
「柚木ちゃん相手だったらそりゃあもう、手取り足取りだがな♪」

話が難しい部分を抜けたとたんに、この人は早くも相好を崩して女の話を始める。しばらく僕から『柚木ちゃん情報』を執拗に聞きだしたかと思うと、なんか周りの文系女子がこめかみに血管浮き上がらせそうなきわどい猥談を始め、店全体の空気が『猥褻物は出て行け』風になってきたあたりで、僕は紺野さんを促して店の外に出た。

――結局、僕は危機回避センサーの忠告を無視して、この件に関わることになった。

レジで会計の際、『ありがとうございました』の一声を掛けてもらうことは、なかった……


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『ツタヤに寄って帰るから』という紺野さんと別れてしばらく
僕は、新宿通り沿いにずっと歩いていた
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