第109話 遺していくもの
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たであろう一〇枚ほどの履歴書を俺に寄越してくる。
「……どなたも私より前線でも後方でも実績がある方ばかりですね」
全員が中佐で、三二歳から五四歳。士官学校出と専科学校出は半々。機動集団補給参謀、星域管区備品課長、後方勤務本部本部長付、等々、責任ある部署に勤めていた人物ばかりだ。恐らく誰がなっても能力的に問題はない。だがトリューニヒトは、この中の誰がなってもご不満のようだ。
「そこに居ない人物でも構わないよ。君の知り合いで、これぞという人物が居れば推挙して欲しい」
そう言ってトリューニヒトはスムージーに手を伸ばす。だが俺の知り合いなどたかが知れている。先輩・同期・後輩とどの顔を思い浮かべてみても、目の前の怪物を毛嫌いするマトモな人間ばかりだ。もしかしたらウィッティなら務まるかもしれないが、アイツをクブルスリー提督の元から引き離したくはない。
だが一人。俺の知り合いの中で何とかなりそうな人間はいる。現時点では階級不足だが、原作上でもトリューニヒトと繋がりがあった。犬のように仕えることもできる精神性の持ち主だ。
「誰かいい人物でもいたかね?」
俺の表情の変化をすかさず読み取ったのか、蠅を目の前にした蛙のような表情を浮かべている。その前で履歴書を奇麗に揃えてテーブルの上に置いてから、俺は口を開く。
「能力的には問題ありません。手順も機微も理解している人物です。ですが階級が不足しております」
「現階級は?」
「少佐です」
「なら問題ない。大佐になるのは少し遅くなるかもしれないが、一階級なら私が何とかしよう」
そう言って本当に何とかしてしまうのがこの怪物なので、その辺は問題ない。ただ原作での知己がここで繋がったと考えると、結局は原作とは動かすことのできない未来そのままなのかもしれない。俺のやっていることなど、文庫本に数行付け加えるだけの程度なのか。回答を促す怪物の瞳を見返しつつ、俺は応えた。
「戦略企画室参事補佐官補のカルロス=ベイを、小官の後任としてトリューニヒト先生に推挙いたします」
俺の回答に一瞬だけ目を点にした後、怪物はスムージーを飲みながら、満足げに頷くのだった。
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