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ボロディンJr奮戦記〜ある銀河の戦いの記録〜
第109話 遺していくもの
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って俺を殺せる』だろうが、『自分の手で殺せないことが残念だ』と思っているの間違いだろう。自意識過剰なのかもしれないが、少なくとも奴は地球教幹部であり、俺がトリューニヒトに帝国との講和を示唆するようなレポートを提出していることを知り、それを良しとした自治領主が暗殺されたのだ。地球教が自分達の構想の邪魔となりかねない俺を、予防的に殺すことを躊躇うことなどない。

 待ち構えている暗雲が帝国軍のものだけではないという現実に俺は溜息しか出ないが、この場で出すことは許されないことも分かっている。トリューニヒト自身、地球教の事を知った上で奴を雇っているのだし、サイオキシン麻薬の頒布については今のところ小規模に抑制されているというところを見れば、現時点では対等な関係と見るべきだ。つまりそれはトリューニヒトにとっての俺の価値を棄損するようなことは慎まねばならないということ。

「そうですか。喜んでいましたか、彼は」
「ただ実際のところ、君が私の下を離れるというのは、人材面としては痛い」

 それは自業自得だし、断じてお前の下に居たつもりはないが、チャーシューを突き刺していたフォークを器用に指の間で廻すトリューニヒトが、滅多に外では見せない溜息をつくので、俺は黙って鶏チャーシューに手を伸ばす。

「特に君の後任人事について、統合作戦本部人事部と国防委員会人事部が珍しく喧嘩してね。どちらも推薦者を出したくないから、押し付け合っているんだ」
「それはなんでまた……」
「誰を推薦しても君ほどの能力を発揮できるわけがないと分かっているからだよ。もし後任が業務を滞らせれば、推薦者の責任を問われてしまうからね」

 俺の場合はトリューニヒトの一存で現場から一本釣りされただけ。俺の背中に見え隠れするシトレとトリューニヒトの影に勝手に相手がビビってくれただけだ。人の良いモンテイユ氏や他の同年代の中堅官僚達が、遊び仲間の体で仲良くしてくれた面もあってたおかげで、各所の交渉がスムーズに進んでいるだけに過ぎない。

 外部に関してもラージェイ爺さんや、ハワード=アイランズ氏といった百戦錬磨の老獪達が、大した恩義でもないのに借りを返すつもりで、若くて未熟な俺を指導してくれただけだ。ピラート中佐の能力を備え、その上で適度な前線勤務実績があれば、機微さえ間違わなければ難しい仕事ではない。膨大な仕事を上手い具合に調整できる有能な秘書官が居れば、より仕事は楽になる。

「そういうわけで君の後任について、仕事に詳しい君が推薦してもらえると、私としては実に安心できるんだが」

 そしてこれが今日、俺を呼んだ本題だろう。自分で責任を取ることなく、他者に責任を押し付けつつ、成功すれば自分の功績とする。勿論後任が失敗すれば、俺の責任だ。トリューニヒトが椅子の脇に最初から準備してい
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