第109話 遺していくもの
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使っている。
顔はトリューニヒトに向けたまま、視線だけオフィスと事務スペースを区切る扉に視線を向けると、トリューニヒトの瞳も同様に扉に向く。今夜、悪霊の姿はこのオフィスにはなかった。どこで羽を伸ばしているのか知らないが、盗聴器くらいは当然仕掛けているだろう。
「あぁ今夜は君のライバルはお休みだよ。半身を失ったにもかかわらず奮闘する君のおかげで、来年度の国防予算審議は昨年同様実にスムーズな決着を見た。特に政庁内部で所用もなさそうなので、彼には先に私の畑に行って、草取りを手伝ってもらっている」
俺が『アイツもスパイではないか』と懸念していると思ったのだろうか。余計な心配をかけて申し訳ないといった表情でトリューニヒトは肩を竦める。実際懸念どころか大義名分と機会があれば、即座に蜂の巣にしたやりたいのだがそこまで言う必要はない。
これまでの実績宣伝と培われた人脈金脈から、トリューニヒトが自身の選挙区で負けるとは到底思えない。むしろアイランズやネグロポンティといった手下達の選挙の応援に行く必要がある。あの悪霊に留守にする選挙区の草取り(維持管理)を任されてるとすれば厄介な話だ。草取りどころか草撒きになりかねない。
「出過ぎたことをお伺いしますが、ヴィリアーズ氏は本当にポレヴィト星域選挙区からの出馬を考えているのですか?」
「ちっとも出過ぎてはいないとも。ライバルの将来が気にかかるのは至極当然のことだ」
トリューニヒトは二度頷くと、チャーシューからリンゴとショウガのホットスムージーへと手を伸ばす。
「彼の能力はともかく現在の実績だけでは、いきなり評議会議員選挙に打って出るのは流石に難しい。再来年初頭に任期満了に伴うポレヴィト星域議会議員選挙がある。そこで一期務めてもらった後、高齢になった前任者の禅譲という形で評議会議員選挙に出てもらう考えだ」
もしトリューニヒトの言う通りであれば、奴は地球教本部での出世ではなく潜伏者として同盟内部に残るということになる。宇宙暦七九七年の選挙で評議会議員になるとなれば、地球教の大主教であった原作とは大きく異なることになる。それが同盟の未来にとって良い事とは到底思えないが、良くも悪くも奴は自己中心的な野心家のリアリストだ。地球教の教義に対する信奉など『欠片もない』という点では信頼が置ける。
「彼も君のことを随分と気にしているようでね。期が変わったら君が、第三辺境星域管区の機動哨戒隊に赴任することになることは話してある」
「え?」
「彼は喜んでもいたし、残念がってもいたよ。辺境の治安が回復することは望ましいが、ポレヴィト星域は第三辺境星域管区ではないから、『マーロヴィアの狐』の腕前はポレヴィトでは発揮されないと」
それは『辺境の哨戒隊なら帝国軍や宇宙海賊あるいは部下の叛乱を装
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