第109話 遺していくもの
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死者は任務の為に死んだという一点において平等であるのだから、か」
まだ子供の頃。あれはこちらの世界の実父であるアントンの葬儀の後だったか、グレゴリー叔父が俺にそんなことを言っていたような気がする。自分にとって重要な部下か、そうでない部下か。友人であるかそうでないか。確かそんな話だったはずだ。だがもし死んだのがチェン秘書官ではなくエベンスやベイだったらどうだったか……俺は右手の中に納まる、やや大きめで飾り一つない真鍮製のロケットペンダントを開けたり閉めたりして思う。
言われた通りの場所にあったそのペンダントの中には、それほど長くない黒髪が二〇本と、五ミリ四方のマイクロデータメモリが収まっていた。金髪の孺子が事あるごとに胸元に下がっているそいつを弄っていたが、今こうやって手元にあると、自分はあれ程のセンチメンタリストではないと思っていたが、その気持ちが何となくわかってくるのが不思議だ。
「しかしどうしたらいいんだ。こんな宿題……」
……正直三番目以外の宿題は大したことがない。機会さえあれば喜んで悪霊はこの世から退散させてやるつもりだし、エルトン氏には既に伝達済み。最後の宿題はこの世界に生まれてからとうに覚悟している。
ペンダントに入っていたマイクロデータメモリの中身は最大容量に比してそれほど多くはなかった。内容の七割方はフェザーン高等警察の極秘資料である『人間牧場』事件の概要。歓迎パーティーでユリアンがフェザーン人に言われたように、甲斐性に応じて綺麗な女の子が『買える』という現実を示していた。『生産拠点』を抑えたので組織の概要はだいたい掴めているが、『販売』は複数の仲介を挟んでいる為、行方が分かってる『生産品』は事業に協力していた病院に残された当歳児しかない。
チェン秘書官が自ら調べた範囲でも、四人の子供は未だ闇の中。一番下の子は生後三ケ月だったはずで、当然自分の足で動けるわけがないのだが、病院に残されていた当歳児全てと親子関係は認められなかった。さらに上の三人の子供も行方が分からない。チェン秘書官は孤児院から合法非合法関係なく洗いざらい遺伝データをかき集めたが、調査開始が遅かったこともあり親子関係が適合する子供は見つからなかった。
出世して自治領主になったワレンコフもかなり協力したが、事件から時間が経過していること、到底外部に公表できない事件であること、高等警察の要員には限りがあること、販売ルートが国外(特に帝国側)にも及んでいたこと、そして長老会議の中に『寝た子を起こすような真似はするな』といったジョークとしても最悪な意見があったこと、からチェン秘書官は苦戦した。
フェザーンで公務員となり、その容姿と優秀さから潜入工作員となったチェン秘書官は、最初帝国側への潜入を希望したが、人種の壁はあまりにも厚
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