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ボロディンJr奮戦記〜ある銀河の戦いの記録〜
第109話 遺していくもの
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 一つ目は自治領主閣下の暗殺を首謀したのは地球教の幹部であることを忘れずに覚えていただくこと。今後、中佐が成功を収めることがあれば、必ずや地球教が接触してくるでしょう。彼らはこれぞと見込んだ人物を支援し、手中に収めようとします。あの悪霊の若造に目を付けられている以上、どんな形であれ中佐の未来に地球教が関与してくるのは想像に難くありませんが、どうぞ受け入れることのないように。サイオキシン麻薬中毒患者の中佐など、虫けら以下の役立たずです。

 二つ目は中央情報局第二課課長のジョン=エルトン氏に私の死をご報告ください。彼はスパイマスターとしてもそれなりに優秀ですが、私とは同期で入局した間柄で付き合いも長く、局内でもそれなりに顔の利く男です。たぶん悲しんでくれるとは思いますが、あまり期待はしていません。私は最初から局を裏切っていましたが、彼と、二〇年間遂ぞ会うことができなかった彼の奥様を裏切ったことはありませんので、たぶん話せば何か中佐のお役に立つことがあるかもしれません。

 三つ目は機会を見て私の知らない子供達を探していただきたいのです。産んだだけで育ての一切しなかったロクデナシの母親ですが、死を前にするとやはりどんな子供だったのかと、何故か思い至るようになるものらしいです。私のDNAデータはミニキッチン左の一番下の棚の裏の二重底に隠してあります。数に限りがありますので、大切に使ってください。私がこれまで自腹で調べた資料も一緒にマイクロデータで詰め込んであります。プロテクトキーは中佐の一番大切な赤毛女の名前と生年月日の逆入力です。設定入力時に本気で反吐が出そうでしたが、仕方ありません。

 四つ目はどうか御身を大事にしてください。まずもって部下よりも前に出て自分の命を張るのは、貴方の軍人としての信念なのでしょうが、傍から見ている側としては心配で仕方ありません。もう一人の赤毛の女の子に限らず、貴方が今まで成してきたことで救われた人間の数は相当なものです。それもまた貴方の信念の賜物でもあり、私も恐らくは救われた一人なのだと思います。どうか中佐が私に会いに来られるその時まで、それを忘れることなく御身を大事になさってください……

 あぁ、三つではなく四つでしたね。やり直し……するのも面倒なので今日はこのままで。それでは何事につけても察しの悪い、私の五番目の息子へ。三人目の母より」

 立体画面の中で二〇代半ばの女性SPに化けていたチェン秘書官が、首を僅かに傾けつつ小さく手を振り、そこで唐突に手紙は終わる。そして最初に戻って再生が始まる。その投影機の横には空になった酒瓶が規則正しく並んでいる。並べられるのはこの部屋の唯一の住人である俺以外には考えられないのに、その並びがどうにも煩わしく思える。

「死んだ後に平等に扱わないのは間違いだ。
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