第三章
[8]前話
「もう二度とです」
「行きたくないか」
「はい」
こう答えるのだった。
「宴だというのに」
「粗末な服を着てか」
「言葉を出せないなぞ」
そうしたものはというのだ。
「二度とです」
「行きたくないのだな」
「エンキドゥも同じです」
「そうだろうな、あちらには言っておく」
冥界の方にはとだ、エアは答えた。
「わしからもな」
「宜しくお願いします」
「やはり生きている者が冥界に行くのは無理があるな」
エアはあらためて思った。
「真の英雄であるそなた達が本気で嫌がるのだからな」
「若し二つのことを破れば」
「死んでいた」
ギルガメシュにまさにと答えた。
「そうなっていた」
「死にたくないです、ですから道中」
冥界の神の宮殿に行くまでのそれはというのだ。
「常に死への恐怖を感じ」
「宴の場でもだな」
「戻るまでも。非常に疲れました」
それぞれの心がというのだ。
「そうなりました」
「そうであったか」
「はい、そして」
それにというのだ。
「今もです」
「そう言うな」
「左様です」
まさにというのだ。
「二人共です」
「生きる者に冥界は無理か」
「あちらは死者の場、死んでからです」
そうなってからというのだ。
「行くべきかと」
「そうだな」
エアはギルガメシュの言葉に頷いて述べた。
「ではもうそなたにはな」
「冥界に行くことはですか」
「エンキドゥと共にな」
「死ぬその時まで」
「冥界に行くことはない様にしよう」
「その様にお願いします」
こうした話をしてだった。
実際にギルガメシュとエンキドゥはそれぞれ生きている間二度と冥界に行くことはなかった。そして二度と行きたくはないとも言った。英雄といえど死にまつわるものは嫌なものである、それを語るメソポタミアの古い神話の一つである。
二人の英雄と冥界 完
2024・3・13
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