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コントラクト・ガーディアン─Over the World─
第一部 皇都編
第二十六章―黎明の皇子―#7
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いませんよ、ファルお兄様…。

 この人、こんなに心配性だったんだ────そう思うと何だかおかしくなって、口元が緩んだ。

「ふふ…、ご心配ありがとうございます、ファルお兄様。ですが───大丈夫です。レド様が護ってくださいましたから」
「そうか、それならよかった。────ルガレド殿下、感謝申し上げます」
「…別に、お前に礼を言われることではない」

 レド様は、先程の毅然としたものとは打って変わって、憮然とした声音で応える。

 レド様のその反応にファルお兄様は苦笑を浮かべてから、また私へと視線を戻した。

「リゼ────何か困ったことがあったら、遠慮せずに言ってくれ。俺で力になれることなら、必ず手を貸すから」
「ありがとうございます、ファルお兄様」

 これまでの罪滅ぼしなどではなく────純粋に、私を心配してくれていることに胸が温かくなって、自然とお礼の言葉と笑みが零れた。ファルお兄様も嬉しそうに笑みを返してくれる。

「……イルノラド公子、仲間たちが待っているぞ」

 明らかに不機嫌な声音で、レド様がファルお兄様に言う。

 ファルお兄様の背後に視線を遣ると、離れていったとばかり思っていた“デノンの騎士”たちが、皆一様に驚いたような表情でこちらを見ていた。“デノンの騎士”だけじゃない────貴族たちもだ。

 公爵家から除籍された不肖の娘が、跡取りである公子と懇意にしていることが意外なのだろう。

 見回すと───ばつが悪いのか、私の視線から逃れるように、大半が顔を赤らめて逸らした。

 顔を逸らさなかった貴族の一人と眼が合う。

 それは───編み込んだ豊かな金髪を項でまとめ、無骨な甲冑に身を包んだ二十代半ばほどの凛々しい女性で───以前、冒険者の仕事で知り合った人だった。

 彼女───グレミアム伯爵オルア様は、女性ながらに伯爵家を背負い、賢明な上に剣術にも長け、行政だけでなく領軍を率いて魔物や魔獣討伐にも率先して赴く───まさに貴族の鑑のような領主だ。

 身分で他人を判断せず、一介の冒険者でしかない私にも良くしてくれた。

 そして───責任感の強い分だけ、噂に聞く我が儘で貴族令嬢としての責務を全うしようとしない“イルノラド公爵家の次女”のことが許せないらしく、頻繁に話題に出すほど嫌っていた。

 オルア様は契約の儀や新成人を祝うための夜会では見かけなかったから、おそらく───先程の緊急会議で、私がその“イルノラド公爵家の次女”だと知ったはずだ。

 だけど、オルア様の強張った表情からは、この事実についてどう思っているのかは読み取れなかった。


「それでは、ルガレド殿下、御前失礼します。────リゼ、またな」

 ファルお兄様にそう言われて、私はオルア様か
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