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コントラクト・ガーディアン─Over the World─
第一部 皇都編
第二十六章―黎明の皇子―#6
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「何だと?────どういうことだ?」
「ビゲラブナ伯爵より一部貴族の送迎を命じられまして、向かわせた次第です」

「護国を担うべき騎士を…、一貴族の迎えに向かわせた────だと?」

 ビゲラブナの脂汗に塗れた顔は、これ以上ないくらい蒼白になっている。

 大方、その貴族というのは───ベイラリオ侯爵家門、もしくは傘下の貴族なのだろう。

 そもそも、この国に仕える貴族でありながら、辞令式まで1ヵ月を切ったこの時期に、まだ皇都に入っていないことも問題だ。

 本来ならば、遅くとも辞令式の1ヵ月前までには皇都入りするのが決まりなのだ。

 そして、任じられた業務や領地の状況など───最終報告を上げなければならない。その報告によって最後の調整をすることになっている。

 だけど────これで腑に落ちた。

 この場が思ったほど紛糾しないのは、ベイラリオ侯爵家門や傘下の主だった貴族が不在だったからなんだ。

 いたら、きっと誰かしらビゲラブナをもっと擁護していたはずだ。


「つまりは────この事態にあって、動かせる騎士団は一つもないということか」

 レド様の現状確認ともとれる重々しい呟きに、沈黙がさらに深まる。

「宰相────ビゲラブナの不手際の追及については、後を任せる」
「かしこまりました、ルガレド殿下」
「中断してすまなかった。進めてくれ」

 イスに座り込んだレド様の手を、周囲から見えないようにテーブルの下でそっと握る。レド様はすぐに握り返してくれた。

≪ありがとうございます、レド様≫
≪俺がリゼを護るのは当然のことだ≫

 握る手に一瞬だけ力を入れてから────名残惜しかったけれど、手を放す。会議はまだ終わっていない。



 おじ様がこちらに背を向け、高い位置に座す皇王陛下を振り仰いだ。

「陛下───此度(こたび)の件、ビゲラブナ伯爵に任せるには、荷が勝ち過ぎているように思われます。ルガレド殿下は魔物や魔獣に関する知識をお持ちのようですし、魔獣討伐のご経験もあります。ルガレド殿下にお任せしては────いかがでしょう?」

「そうだな。────ルガレド」

 陛下が、レド様をひたと見据えて────その名を呼ぶ。

「は」

 レド様は表情を改めて引き締め、再び立ち上がる。

「指揮権を与える。万難を排して、平定せよ」

「謹んで────承ります」

 レド様が片膝をつき、皇王陛下に向かって、深く(こうべ)を垂れた。

 私にはその背中しか見えなかったが、応えた声音は揺るぎなく────レド様の確かな決意が覗えた。

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