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コントラクト・ガーディアン─Over the World─
第一部 皇都編
第二十五章―過去との決別―#12
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ギルは、涙と鼻水で顔をぐしゃぐしゃにしながらも───どうにか逃がれようとして、あらん限りの力で暴れる。

 その拍子に、尿が漏れて股間に生温かいものが広がったが、そんなことには構っていられなかった。

 暴れ続けるペギルは、胴体への圧迫感が消えたことに気づかなかった。

 不意に、強い力で反転させられて───ペギルは、ようやく暴れるのを止めた。仰向けとなったペギルの視界に、後ろ手に腕を拘束されて跪くヒグスの姿が入る。

 何が起こったのか解らず、視線を回らせると────ヒグスを捕えている人物とは別の男が、ヒグスとペギルを睥睨していた。

 その男は、さほど大柄ではないが威圧感があり────向けられた敵意に、ペギルは震え上がる。


 ペギルは、この男を知っていた。

 騎士として伺候する者───あるいは伺候したことのある者なら、知らない者はいないはずだ。

 “剣聖”として名高く、若くして騎士の最高峰まで昇り詰めた───虧月(きげつ)騎士団団長、ダズロ=アン・イルノラドだ。現イルノラド公爵でもある。

 そして────先日(まみ)えた“双剣のリゼラ”の父親だ。


「リゼラを────始末するつもり、だと…?」

 イルノラド公爵の怒気を孕んだ声音に────ペギルは、ヒグスに剣を向けられたときよりも、臓腑が冷えた気がした。

 恐怖で、喉がひりつく。

「その話────詳しく聴かせてもらおうか」

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