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コントラクト・ガーディアン─Over the World─
第一部 皇都編
第二十五章―過去との決別―#10
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眼中になく、その存在すら、こうして立ちはだかるまで忘れていたというのに────

 その“落ち零れ”であったはずの娘が、今、その手で掲げているのは───紛れもなく、ディルカリド家に代々伝わる魔術陣────“氷姫”だ。

 家宝であるそれを、ザレムが見間違えるわけがない。

 “氷姫”によって創り出された2本の氷刃が飛来して、そのうちの1本がザレムが掲げていた魔術陣を弾き飛ばし───もう1本が首にかけたペンダントの紐を斬り裂く。

 氷刃が、ペンダントの紐と共にザレムの首を浅く抉ったが────ザレムは、それどころではなかった。

(それでは、本当に────これまで放った魔術すべてが、“氷姫”によるものだというのか?私やゲレトでさえ上手く扱えなかったというのに────あの“落ち零れ”には使い熟せた────と?)

 それが事実なら────“氷姫”が扱いの難しい魔術陣なのではなく、父の言う通り、ただザレムが無能だったということになる。
 それは、ザレムにとって屈辱的なことであったが────そんなことは、今のザレムには、もはや些細なことでしかなかった。

 それよりも、何よりも────

(何故だ────何故…、あの“落ち零れ”が、()()()()()()()()()()()()()になっている…?)

 青味がかった白髪────それが、セレナの髪色だったはずだ。

 だが、今、目の前にいる娘の髪色は────ジェミナやゲレトのような()()()()()()()などではなく────正に“青”としか表現しようのない深みのある青色をしていた。

(まさか…、ディルカリダ様の────【青髪の魔女】の再来は、ジェミナでもゲレトでもなく────)

 足元の魔術陣に囚われつつあるザレムは────自分が欲していたものが、かつて手の内にあったという事実に────そのことに気づくことなく手放してしまったという事実に愕然としながら────徐々に思考がぼやけていく中で、娘を蔑ろにしていたことを初めて後悔した。

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