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コントラクト・ガーディアン─Over the World─
第一部 皇都編
第二十五章―過去との決別―#10
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前に、発動する。
今度は火系統の魔術らしく、炎が無数の矢となって降り注ぐ。
「これは、私が何とかする!魔術を発動させるのに集中しろ!」
「はい!」
ラムルの揺るぎのない声音に、セレナは安心して────ただ魔術を発動することに没頭する。
ラムルは、手にしている大剣でできるだけ火矢を薙ぎ払うと、大剣を双剣へと替えた。それは、リゼラのものよりアーシャのものに近く、大振りの短剣程度しかない。
襲い来る幾つもの火矢を───ラムルは両手の剣を振るい、目にも留まらぬ速度で以て、一刀の下にすべて斬り捨てる。リゼラによって魔剣へと創り替えられた双剣は、いとも簡単に魔術を掻き消した。
これには、ザレムも呆気にとられて棒立ちになった。
そこへ、セレナの魔術が発動して─────防ぎようのない数の氷刃が降り注ぐ。
「お館様…!!」
叫んだのは────ドルトだ。
主の危機を察したドルトは、見た目からは考えられない重さのハルドの攻撃を、渾身の力で弾き返すと───ザレムに向かって、床を蹴った。
ドルトは、無数の氷刃が届く前に、何とかザレムの前に滑り込む。
「っく!」
両手剣を振るって、幾つか氷刃を弾いたものの───剣の質も、技量もラムルには及ばないドルトでは、弾くことができたのは、ほんの一部だった。
止められなかった多数の氷刃が、ドルトの身体を斬り裂く。
そのうちの一つが、ドルトの首にかかっていたペンダントの革紐をも千切り───コインのようなペンダントヘッドが宙に舞ったのを、セレナは眼の端に捉える。
あれだ────セレナは、矢庭にそう思う。
見れば、ザレムも同じペンダントを身に着けている。目を凝らしてみると、ペンダントヘッドであるコインには魔術陣らしきものが刻まれていた。
あのペンダントのおかげで、その禍々しい魔術陣上にいても魔術の影響を受けないでいられるのではないか────と。
氷刃に腕や足、胴体───身体のあちこちを斬り裂かれたドルトが、崩れ落ちる。
ザレムは、自分を庇って足元に伏したドルトに目を遣ることなく、コートの内ポケットに手を伸ばした。
取り出した魔術陣がどんなものなのか判るはずもなかったが、切羽詰まったような───ザレムのその表情から、それがこれまで行使したどの魔術よりも強力なものであることを、セレナは直感する。
(あの魔術を発動させては駄目…!)
セレナは、咄嗟に短杖から“氷姫”を取り出して掲げた。
魔術の規模は大きくなくてもいい────とにかく、ザレムよりも先に魔術を発動させなくては。その一心で、“氷姫”に指を絡ませ、掌を密着させる。
イメージするのは、二つの氷刃。
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