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コントラクト・ガーディアン─Over the World─
第二十五章―過去との決別―#8
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たようで、短杖に魔力を流し始めた。
魔術を連発し続けていたセレナは、魔力がほとんど残っておらず、もう広範囲に無数の氷刃を放つことはできない。
だから───残った魔力で、あの集落潰しのときのリゼラに倣って───繰り出す氷刃はできる限り大きく鋭くして、2頭の魔獣にそれぞれ一本ずつ、喉元や眉間を狙って放つつもりだった。
魔獣が呆然としている今なら、ヴァルトが危険を冒して魔獣の気を引くことなどせずとも、容易に命中させられるはずだ。
セレナが突き出した短杖が光を纏い、眼前に、約1mほどの淡い光を放つ、2つの魔術陣が浮かび上がって───リゼラの持つ“刀”の刃を模した氷刃が、魔術陣から飛び出した。
氷刃は、それぞれ2頭の魔獣を目掛けて、かなりのスピードで飛んでいく。
しかし───セレナが我に返るのが遅かったのか、どちらも2頭の魔獣を屠ることはできなかった。
1頭は、咄嗟に腕で受け止めたためにケガを負わせることはできたものの───もう1頭には、その巨体の割に素早い動きで、避けられてしまった。
魔力を使い果たしたセレナの身体から一層力が抜け、セレナを支えていたハルドは支えきれなくなって焦る。
「ハルド、お嬢を連れて離脱しろ!」
ヴァルトの言葉に、反射的に視線を向けると────2頭の魔獣がこちらに来ようとして、そのうちの1頭がヴァルトを排除するために腕を振り被っている。
セレナとハルドが離脱する時間を稼ぐつもりなのだろう────ヴァルトに逃げる様子はない。
「ヴァルト…!!」
セレナが悲痛な声音でヴァルトの名を叫ぶ。
すでに何頭もの魔獣と交戦しているヴァルトは、動きにいつもの切れがない。この攻撃を何とかできたとしても────魔獣はもう1頭いるのだ。
このままでは────ヴァルトは確実に死ぬ。その事実に、ハルドの血の気が引いた。
ヴァルトを見捨て、セレナを連れて離脱することもできないまま───だからといって、ヴァルトを救う手立てもないハルドは、ただ魔獣の腕が振り下ろされるのを瞬きもせず見ていた。
魔獣の握られた手がヴァルトに届く寸前─────
「【
防衛
(
プロテクション
)
】!」
背後から、凛とした声が響いた。
魔獣の拳は見えない壁に阻まれ、ヴァルトには届かない。
最悪の事態を免れて安堵したハルドは、無意識に声の主を求めて───背後を振り向いた。ハルドがその名を呼ぶ前に、双眸を潤ませたセレナが、感極まったように呟く。
「ああ───リゼラさん…!」
そこには────自分自身に失望し、未来を見失っていたハルドを救ってくれた敬愛する主───リゼラが、護衛であるジグを伴い、その艶やかな黒髪を靡かせて佇んでいた。
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