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コントラクト・ガーディアン─Over the World─
第一部 皇都編
第二十五章―過去との決別―#7
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ド公女の持つ両手剣に引き付けられたように───1頭の魔獣が、奥の空間から抜け出して、舞台上へと片足を乗り上げた。
魔獣の重みで舞台は大きく軋み、その足元に蜘蛛の巣のような亀裂が走って───魔術式を護る2つのガゼボが、それぞれ魔獣の硬い腕や太腿に当たって、あっけなく崩れる。
「や、やだ…、こないで…!」
泣きそうに顔を歪めながら、イルノラド公女が震える声で叫ぶ。
カデアは、その様を冷めた眼で見ていた。今なら助けようと思えば助けられる。だけど────カデアにそのつもりはなかった。
カデア単独では2頭の魔獣を倒すことが困難である以上、ここで中途半端に手を出す意味はない。優先すべきは、ルガレドの安全だ。
それに────あの公女がリゼラを苦しめたことは、リゼラを大事に思っているカデアにとって、到底許せるものではない。
もし、リゼラがイルノラド公女の死を悲しむようであったなら、カデアも危険を冒して何とか助けようとしたかもしれない。
だが、リゼラが悲しむとは思えなかった。
イルノラド公女は、助けを求めて後ろを振り返る。そして────ジェスレムの表情を見て、愕然となった。
ジェスレムは、心底楽しそうに笑っていた。まるで────イルノラド公女が魔獣に殺されることが、愉しくて仕方がないというように。
これには────冷めた目で見ていたはずのカデアも、呆気にとられてしまった。
「本当に────歪んでいるな…」
カデアが零すよりも早く、傍らにいるエデルがそう零した。一瞬だけ、それに気を取られ────また舞台に視線を戻した瞬間だった。
魔獣は───その太く毛深い右腕を、ただ左右に大きく振っだけのように見えた。イルノラド公女が吹き飛び───向かい側の壁に激突して、ずるずると床に滑り落ちる。
魔獣の右手には、イルノラド公女のちぎれた両腕が握られていた。
その両手が緩み、掴んでいた両手剣が、ガラン────と音を響かせて、舞台上に転がった。
魔獣がその両手剣を拾おうと屈み込んだとき───とうとう魔獣の重みに耐え切れなくなった舞台が、まるで口を開けたかのように崩れ───舞台を構成していた建材ごと、魔獣の巨体を呑み込む。
突然の出来事に、カデアやグラゼニ子爵一家のみならず、あのジェスレムまでもが驚きを隠せず、誰もが唖然とした表情で立ち尽くした。
「な────何があった…?おい、お前、見て来い!」
ジェスレムが、グラゼニ子爵家の護衛らしき男に命じる。
その男は躊躇いつつも、命令通りに確かめようと辛うじて残っている舞台の端に上った。男が覗き込んだ、そのとき────不意に、魔獣を呑み込んだ巨大な穴から、眼を焼くような眩い光が迸った。
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