暁 〜小説投稿サイト〜
コントラクト・ガーディアン─Over the World─
第一部 皇都編
第二十四章―妄執の崩壊―#8
[2/8]

[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話
聖堂と違う点は───そのガゼボのようなものが二つ並んでいることだ。それぞれの床部分に一つずつ魔術陣に似たものが描かれていた。

 神託を受けるとき、その片方の魔術陣に乗らされたことを、ファミラは思い出した。もう片方には司祭が乗ったことも。

 その後ろ側───つまり聖堂の最奥には、この吹き抜けの高い天井にどうやって吊るされているのか、純白の鎧を身に纏う凛々しい騎士が描かれた巨大なタペストリーが垂れ下がっている。

 これは、この教会を大々的に改修したというデノン王を描いたものであることを───不勉強なファミラには知る由もない。

 そして───舞台の手前には、皇城と同様に木造りのベンチが規則正しく並んでいる。

 ベンチには、護衛を連れた貴族らしい集団が、3ヵ所に分かれて座り込んでいた。ジェスレムと同じく、成人した令息あるいは令嬢のお礼参りのようだった。ジェスレムが来たため、順番が一時中断されているのだろう。


「さあ────ファミラ。参拝をしようか」

 ジェスレムが、柔らかい声音で優しく言う。

 ジェスレムに優しくされて喜ぶところなのに────ジェスレムのその声音に、その笑顔に、ファミラは何故だか寒気を覚えた。耳の奥で、警告するように鼓動が鳴り響く。

 だけど、逆らうことなどできるはずもない。

 気のせいだと自分に言い聞かせて、魔剣を抱き締め、振るえる足を叱咤して何とかジェスレムの後に続いた。

「どうした、ファミラ。早く舞台に上がって来い」

 舞台の前で立ち止まってしまったファミラに気づき、ジェスレムが苛立ったような声音で命じる。

 不思議なことに、その不機嫌そうな声音を耳にしたら、やはりさっきのは気のせいだったのだと思えて、ファミラは安堵した。

 気を取り直して、舞台へと上る。

 ジェスレムが魔術陣の一つに歩み寄り跪き───右手を胸に添えて、(こうべ)を垂れる。その様子を、ファミラは舞台の端でただ眺めていた。

 しばらくして───神への祈りを終えたらしいジェスレムが顔を上げた。

 そのとき、ジェスレムが視線を僅かに右方向へずらしたことに、ファミラは気づいた。ジェスレムの視線の先を追いかけたが、別に何もない。

 勘違いだったかと思い、ジェスレムに眼を戻すと────ジェスレムの口の端が俄かに上がって、笑みを形作った。ファミラの耳の奥で、また鼓動が大きく響き始める。

 ジェスレムが不意に立ち上がり、ファミラの方へと振り向く。

 ジェスレムは、笑みを浮かべたままだった。ファミラは、ジェスレムのその笑みを正面から見て、先程から何故不穏なものを感じるのか───その理由が、やっと解った。

 それは、ジェスレムの眼だ。口元は弧を描き笑っているようなの
[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ