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コントラクト・ガーディアン─Over the World─
第一部 皇都編
第二十四章―妄執の崩壊―#6
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の文献にも特にそんな記述は見当たらないよ。ただ…、そのバナドル王の側妃の髪色が青かったらしいんだよね」

 おじ様の言葉に、一瞬────時が止まってしまったような気がした。

「まさか────ジェミナ皇妃が、あれだけ傍若無人に振舞っているのは…」

「そう───“エルダニア王国を繁栄させたバナドル王の愛妃”の再来だから────だそうだよ。エルダニア王国時代から続く“老害貴族”どもは、おぞましいことに、そう信じて────あの毒婦を崇め奉っているんだ」

 答えるおじ様は、柔和な笑顔を浮かべてはいたものの、眼は凍てついて冷たかった。

「それは────ありえません」

「何がだい?」
「ですから…、ジェミナ皇妃が───ベイラリオ侯爵家が、仮にエルダニア王家の血筋だとしても…、バナドル王の側妃ディルカリダの血を引いていることだけはありえないんです」

 私が言葉を重ねると、おじ様が眼を見開いた。

「何故なら────ディルカリダ側妃とバナドル王の間には、子供は生まれなかったんですから」

「それは───それは…、本当かい、リゼ」
「ええ。『エルダニア王国正史』にも、『バナドル記』にも、それは記されています。バナドル王の跡は、ディルカリダ側妃と出逢う前に正妃との間に生まれた王子が継いだことも、はっきりと記されています。そもそも、ディルカリダ側妃との間に子供がいたら、バナドル王はその子供を後継にして、ディルカリダを正妃としたはずです。数多の功績を残し、バナドル王の寵愛を一身に受けながらも、ディルカリダが側妃のままだったのは────子が生まれなかったからなんです」

「では────先代ベイラリオ侯爵の主張は───あの連中が信じていることは────」
「まったくの虚構です。それに───先代ベイラリオ侯爵は、おそらく歴史研究家のビオドが自著『魔術考』で述べた仮説から、ディルカリダ側妃の髪色が青だと思い込んでいたのでしょうが───ディルカリダ側妃の髪色は青ではなく…、亜麻色なんです」
「…そうなのかい?」
「ええ。こちらも文献に記述があります」

 私が言い切ると、突然、おじ様が笑い出した。

「はは、ははははは…!」
「おじ様…?」

「やっぱり、リゼは私の幸運の女神だ。ああ…、これで────これで…、やっと、あの毒婦を────この国に巣食うクズどもを…、(はら)う糸口が見えた────」

 おじ様の『()()幸運の女神』という言葉に反応したのだろう、レド様がおじ様に反論しようとして───口を噤んだ。

 おじ様が過激な言葉とは裏腹に、希望に満ちた───朗らかな笑みを浮かべていたからだ。

「リゼ───先程挙げた文献は、何処で目にした?現存しているものなんだろう?」

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