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コントラクト・ガーディアン─Over the World─
第一部 皇都編
第二十一章―ファルリエムの忘れ形見―#1
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仕種や言動は、女の子が男装しているなどというレベルではなく、成長期を一つ越え、次の成長期を待つ少年そのものにしか見えない。

 エルは、してやったりと悪戯が成功した男の子のように笑みを零すと、私の腰に巻き付けていた腕を放し───レド様に向き直り、表情を変えた。

 眼差しや口元が微妙に変化しただけなのに────途端に、男装している少女にしか見えなくなる。

「失礼いたしました。お初にお目にかかります、ルガレドお兄様。わたくしの名はティエラ。ディンドが一子にございます」

 コートにズボンという格好にも関わらず、エルのカーテシーは違和感なく優雅な印象を(もたら)す。

 ディンド────確か…、ファルリエム辺境伯の弟の子供───つまり甥で、セアラ様の従弟に当たる。皇妃一派に邪魔をされなければ、ファルリエム伯を継ぐはずだった人物だ。

 その娘ということは────エルはレド様とは血縁的には再従兄妹(はとこ)となる。

「ティエラ…、お前が…。────話には聞いていた。よくぞ───無事でいてくれた」

 爵位継承を皇妃一派に邪魔された際、ディンド卿もティエラ嬢も行方知れずとなっていた。

 レド様にとってエルは、ファルリエム辺境伯家の───それこそ忘れ形見だ。

 しかも、エル───ティエラ嬢は、当時6歳だった。皇妃の浅はかな思い付きで、失われるには幼過ぎる。

 レド様の思いを汲んだエルは、演技ではない────自分の感情を載せた、嬉しそうな笑みを浮かべる。

「ありがとうございます、ルガレドお兄様。わたくしも、お兄様の元気なお姿を拝見できたことを、とても嬉しく思っております」

「それは…、リゼのおかげだ。リゼがいてくれなかったら────きっと再会できたとしても、こんな心穏やかに言葉を交わすことはできなかったはずだ」

 レド様はそう言ってくれるが────何だか…、大げさな気がする。


 そんな風に思っていると、いつの間にか傍に立っていたラムルが、私に囁いた。

「旦那様が仰ったことは、決して誇張ではありませんよ。親衛騎士となったのがリゼラ様でなければ、状況が向上することもなく───ティエラ様ともベルネオとも、何とか会うことができたとしても、心に余裕がない状態のままで────こんな風に歓談することなどできなかったでしょう」

 まあ、確かにジェスレム皇子と諍いを起こしたという子爵令息が親衛騎士となった場合───私のように宰相であるおじ様に融通を利かせてもらうことはできなかっただろうし、あの酷い状況の打開はもっと時間がかかっていたかもしれない。

 でも、それは────私というより、おじ様のおかげではないかなと思ってしまう。

 だけど、レド様もラムルも、親衛騎士となったのが私で
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