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コントラクト・ガーディアン─Over the World─
第一部 皇都編
第十五章―それぞれの思惑―#6
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※※※


「ジェスレム様、聞いておりますの?無視するなんて失礼ですわよ」

 ファミラの空気を引っ掻くような耳障りな声に、ジェスレムはついに怒りを爆発させた。

「うるさいっ。いい加減にしろ、ファミラ!おまえは、一体何様のつもりだっ。僕は皇子だぞ、無礼にもほどがある!」

 声を荒げて叫び、テーブルを蹴り飛ばす。テーブルが倒れた拍子に、ケーキが床に落ちて潰れただけでなく、ケーキを載せていた皿や希少品であるティーカップとソーサーが、床に投げ出され音を立てて砕けた。

「ひっ…!」

 ファミラは、そこで────ようやく、ジェスレムが自分の無礼を許すことはないのだと、理解したようだった。血の気が引いたらしく、顔が真っ青になっている。

「この女を、自分の部屋に連れて行って、閉じ込めておけ。それと───このティーカップは、イルノラド公爵家に弁償させろ。いいな?」

 ジェスレムが侍従にそう命じると、ファミラが慌てて口を挟んだ。

「そ、そんな…!壊したのは、ジェスレム様ではありませんか!何故、我が公爵家が────」
「僕はこのティーカップを持ち出すことを許可していないよ。勝手に持ち出したおまえが悪いに決まっているだろう?このティーカップは、滅多に出回らないガドマ共和国の逸品だから、高くつくだろうね」
「そんな…!」

 荒げていた声音と口調を戻し、嘲りの笑いを浮かべ────ジェスレムは告げる。すると、ファミラは、面白いくらいに狼狽えた。

 ファミラは諦め悪く、ジェスレムに撤回させようと喚き始めたが────ジェスレムはもうファミラの言葉など、耳に入れるつもりもなかった。

 連れ出そうとする侍従に抗ってまで足掻(あが)くファミラの姿は、ダブグレル伯爵や、これまでジェミナとジェスレムが容赦なく切り捨てた連中とそっくりで────ジェスレムの中でファミラという存在は、完全にどうでもいいものに変わった。

「ここを片付けておけ」

 中々出て行かない上に、喚き散らすファミラが不快で、ジェスレムはそう言い置いて部屋を後にした。


◇◇◇


 ジェスレムは、ファミラがやっと思い知ったことに、少しだけ溜飲が下がったものの、苛立ちが治まらず、足音も荒く────人気がなさそうな自邸の中庭へと向かった。

 この皇城には庭園が幾つもあるのに、中庭を造ったのは、ジェミナが自分一人だけで楽しむ庭園が欲しいと、先代ベイラリオ侯爵に強請(ねだ)ったからだ。

 それまでは妃一人に割り当てられる広さには上限があったのだが、ジェミナの我が儘を叶えるため、先代ベイラリオ侯爵は、その権力でもってそれを撤廃し、中庭を造園した。

 異母兄ルガレドの貧相な邸よりも大きいこの中庭は、ガゼボや池があるだけでな
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