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コントラクト・ガーディアン─Over the World─
第一部 皇都編
第十五章―それぞれの思惑―#5
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─『何故、こんな男に』という疑問とも嫉妬ともつかぬ思いだった。

 少女のその表情は、出来損ないで才覚のない兄よりも、いずれこの国を担う優秀で気高いこの自分に向けられるべきではないか────と。

 だが、少女は────その視線でさえ、ジェスレムに向けることはなかった。退出するその瞬間まで、一度として。

 あの少女がルガレドなどにあのような表情をするのは、きっとジェスレムを知らないからだ。ジェスレムが少女に一度でも接してやれば────あの表情は、ジェスレムに向けるようになるはずだと確信があった。

 だから───夜会が終わってすぐに、母にルガレドの親衛騎士を取り上げて、ジェスレムの親衛騎士にするよう訴えたが、母の答えは否だった。

『何、バカなことを言ってるの。あの野獣の子ならともかく────何故、血統正しいおまえが、あんな出来損ないで教養もない娘を親衛騎士にしなければならないの』

 あの少女の所作を見たにも関わらず、母は、あの少女が何の教育も受けておらず、教養がないとまだ信じているみたいだった。

 言い返そうとしたジェスレムを、ジェミナは冷たい眼で見遣る。

 その眼は何も映していないかのように昏く、到底、息子に向けるものではなかった。

 この眼は、母が他人を切り捨てるときにするものだった。先程の夜会で、ダブグレル伯爵に向けていた眼だ。

『ジェスレム────わたくしは、疲れているのよ。聞き分けがない子は嫌いなの』

 そう言われては、引き下がるしかなかった。こういうときの母は、実の息子であるジェスレムさえも切り捨てるであろうことを────ジェスレムは本能的に察していた。

 その後、日を置いて何度か訴えてみたものの、母は叶えてくれない。そのうち、話すら聴いてくれなくなった。

 それなら────と、今度は祖父であるベイラリオ侯爵に訴えた。しかし、祖父の答えも否だった。

『何故、ファミラ嬢のままではいかんのだ?ファミラ嬢を取り立ててやり、出来損ないの娘を処分するのに一役買って────せっかくイルノラド公爵に恩を売ったのに、それを台無しにすることはあるまい』

『イルノラド公爵など、お祖父様にとっては小物に等しいでしょう?そんなこと、気にする必要はないのではないですか?』

 そう諭したが、祖父は首を横に振るばかりだった。

 意見が通らないことに腹を立てたジェスレムは、祖父に挨拶もせずに、乱暴に扉を開け応接間を飛び出した。

 それが────つい先程のことだった。

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