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コントラクト・ガーディアン─Over the World─
第一部 皇都編
第十五章―それぞれの思惑―#5
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 原因は解っている。自分の不肖の異母兄ルガレドと、その親衛騎士であるファミラの妹のせいだ。

 才覚がないために貴重な左眼を失った上、傷を負って醜くなった異母兄ルガレド────母であるジェミナが言うがまま、ジェスレムはルガレドのことをそう評していた。

 普通に考えれば、7歳にしかならない子供が、数人の暗殺者に襲われて敵うはずもない。

 しかし、ジェスレムも、暗殺者を差し向けた張本人であるジェミナも───ルガレドが左眼を失ったのも、額から頬にかけて醜い傷を負ったのも、本人に暗殺者を退ける才覚がなかったからだと、本気で考えていた。

 その才覚のない出来損ないの恥ずべき兄が、やはり出来損ないの我が儘で傲慢な公爵令嬢を親衛騎士に選んで────婚約までした。

 すべてジェミナの采配であるにも関わらず、ジェスレムはそれさえもルガレドの失態であるかのように考え、嘲笑っていた。

 それなのに────

 夜会当日、ジェスレムの前に現れたのは────ジェスレムが思い描いていたような、“皇子と公爵令嬢とは名ばかりの惨めでみすぼらしく卑しい存在”ではなかった。

 きちんと髪を整え、見るからに名のある職人があつらえたのだと判る夜会服を着こなしたルガレドは、まさに皇子然としていて、醜い刃傷でさえも威厳の一部のように感じられた。

 そして我が儘で傲慢な公爵令嬢であるという、ファミラの妹。
 こちらも、ファミラの話とも自分の想像とも────まるっきり違っていた。

 身に纏うドレスはジェスレムの感性からすれば地味に思えたし、ジェミナやファミラに比べ化粧もそれほど施されてはいないのに────その少女は美しいと言わざるを得なかった。

 それだけではない。少女は、我が儘で何の教育も受けていないという話だったのに────名を呼ばれ進み出る際の楚々とした動きも、その後の流れるように行われたカーテシーも、付け焼刃だとは思えない美麗なものだった。

 “洗練されている”とはこういうことなのだと、ジェスレムは悟った。

 今まで優雅だと思っていた母の所作も、直前のファミラのカーテシーも、途端にガサツなものにしか思えなくなった。

 極めつけは────あのファーストダンスだ。ジェミナに名指しされ、慌てるしかないと思っていた二人は動じることなく────それどころか、ルガレドは自分の意思で愛しい婚約者をダンスに誘っているかのように少女に手を差し伸べ、少女はそれに───はにかんで応えた。

『はい、喜んで───レド様』

 少女は仄かに頬を赤く染め、嬉しそうに眼を細めて────ルガレドを真っ直ぐに見つめていた。応えた声音も嬉しそうで、無理をしているようには見えなかった。

 その様子を目にしてジェスレムが感じたことは───
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