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コントラクト・ガーディアン─Over the World─
第一部 皇都編
第十三章―愚か者たちの戯言―#6
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※※※


(俺はどうしたらいいんだ……)

 ビバルは、ふらふらとした足取りで街中を歩いていた。

 あの後、どうやって下級兵士用調練場から離れ、皇城を出たのかは覚えていない。気づいたら、朝の忙しない街中を彷徨っていた。

(もう…、この街を出るしか────逃げるしかない…)

 そんな考えがふと浮かび、ビバルは我に返った。

 そうだ────逃げるしかない。

 それに、こんな風にふらふら歩いているところを、もし、ゲドに見つかったら────不意に恐怖が込み上げ、ビバルは慌てて周囲を窺った。

 幽霊屋敷に迷い込んだ泥棒さながらに、ビクビクと怯えながら歩くビバルに、道行く人々は不思議そうに振り向く。

 とりあえず、逃げるための荷造りをする目的で、自宅へと向かう。

 自分が住む集合住宅が見え、ほっとしたのもつかの間、その出入り口の脇に、男が一人立っているのが目に入り、ビバルは足を止めた。

 男はガタイがよく、見るからにカタギではない。ざっと血の気が引き、ビバルは寒気に身を震わせた。

 きっと、ゲドの差し金に違いない。

 幸い、相手はビバルに気づいていないようだ。ビバルは震える足で、音を立てないようにある程度後ずさると、身を翻した。

 背を向けたビバルは、出入り口に立っていた男が、ビバルが逃げ出したのを見て、ほくそ笑んだことを知らなかった────



 無我夢中で走るビバルは、自分が何処に向かっているかなど、意識になかった。ガラの悪い連中が(たむろ)しているのが目に入って────その前の横道に逸れ、幾つかある脇道のうち、人気が感じられない小道を選んだ。

 そうやって────誘導されていることに気づかないまま、ビバルは進んでいく。いつの間にか、繁華街とは切り離された、寂れた通りを走っていた。

 長い間手入れがされていないと判る古く汚らしい建物が並び、窓ガラスが割られ、扉は鍵を壊され開いたままの建物ばかりだったが、中に人が潜んでいるような気配がした。

 所々に、誰が利用するのか雑貨屋や食堂などが点在している。

 見知らぬ界隈であることに気を取られ、気もそぞろに走っていたビバルは、突然、目の前に現れた長身の男に激突し、弾き飛ばされた。

「お?すまないな。前を見ていなかったもんで」

 長身のその男は人の好さそうな表情で、尻もちをつくビバルに手を差し伸べた。

「時間があるなら、良かったら茶でも飲んでいかないか?ここはオレの店なんだ。お詫びにご馳走するぞ」

 男はそう言って、すぐ側の建物を指し示して言う。

 そこは茶店のようで、軽食も出しているようだ。朝食を食べていないことを思い出したビバルは、男の好意に甘えることにした。



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