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コントラクト・ガーディアン─Over the World─
第一部 皇都編
第十三章―愚か者たちの戯言―#5
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…なんだと?まさか…、持ってこなかったのか?────お前、今日、持ってくるっつったよな…?」
ゲドの顔から笑みが消え、こめかみに太い血管が走るように浮き上がる。
眼は見開かれているのに、瞳孔が縮まっていて、ゲドの怒りに塗れた表情はビバルを恐怖させるに十分な迫力があった。
この表情には見覚えがある。初めてゲドと“賭けゲーム”をしたとき───大負けして、手持ちの金がないと告げたら、された表情だ。
翌日に必ず支払うことを約束させられ────そんな大金を用意できるはずもなく、どうしようもなくなって、ルガレドの予算に手をつけた。
そうだ────あれが、始まりだった…。
ゲドがこういう性質だと────何故、忘れていたのか。それは、金さえきちんと渡していれば、怒りを見せられることがなかったからだ。
だから────ビバルは、そのことを忘れているばかりか、ゲドと友人にでもなったような錯覚をしてしまったのだ。
ゲドが、ビバルに寄ってくるのは────ルガレドの予算から引き出す多額の金が目当てなだけなのに。
(金が引き出せないと解ったら────殺される…!)
そこらを這う虫けらでも見るような────ゲドのビバルを見る目の非情さに、そう直感する。
ゲドが、ビバルを、自分と同じ“人間”だと考えていないのだと見て取れて────心の底からぞっとした。
「い───いや、今日は部署にトラブルがあって、申請できなかったんだ!明日────明日にはちゃんと引き出してくるから…!」
ビバルは首と両手を忙しなく左右に振りながら、叫んだ。
「ホントだな…?明日には────持ってこいよ」
ゲドの言葉に、ビバルは今度は縦に首を何度も振る。湧き上がる冷や汗が散って、気持ち悪かった。
その後、ゲドに“賭けゲーム”に誘われたが、ビバルは丁重に断って自宅に帰った。古い集合住宅で、借りているのは独身者が多い。ビバルも例に漏れず、一人で住んでいる。
(まずい、まずい───まずい…。どうしたら───どうしたらいいんだ…)
帰り道でも自室に戻ってからも、そんな言葉が巡るばかりだった。
◇◇◇
とにかく、ルガレド皇子の補佐官である女に会わなければならない。
焦っているビバルは、怪しまれるのも構わず、下級使用人用食堂に赴き、ルガレド皇子の婚約者が現れないか────下級使用人たちに聞いて回った。
婚約者は一度しかここに来ていないという。婚約者だけでなく、ルガレド皇子も最近はここに食べに来ることがないみたいだった。
(くそっ、どうしたらいいんだ…!)
他に接点となるような情報はないかと────ダメ元で、さらに聞き回っていると、意外な情報を聞けた。
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