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コントラクト・ガーディアン─Over the World─
第六章―約束―#1
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だったんだ」

 私の心根が綺麗…?

「そんなはずない……、私の心根が綺麗なんて───そんなはずありません」

 私の心根が奇麗だなんて───あり得ない。

「レド様は…、私を買い被っています。きっと───表面は綺麗に見えていても、奥底は汚く濁っているはずです…」

 レド様の反応を見たくなくて、俯いて固く目を瞑る。そして、そのまま言葉を続ける。

「私────私は…、イルノラド公爵家と絶縁をして、自分の過去を捨てられたと思っていました…。
イルノラド公爵家の所業を知って、レド様も、シェリアも、ラナ姉さんも───皆、私のために怒ってくれた。そのときは、あの人たちのことはもうどうでもいいと、忘れて生きられると、本気で思いました…。
でも───控えの間で…、イルノラド公女の言葉を聞いたとき、思い知りました。私は、あの人たちのことを忘れられていないし、許してなどいないのだと────」

 神託を受けたときのイルノラド公爵の冷たい反応や、イルノラド公爵夫人の心無い言葉と歪めた表情。

 使用人用の屋根裏部屋へ連れて行かれたときのバセドの乱暴な扱い。
 そして───食事のことを訊ねたときの使用人の返答と態度。

 残飯を(あさ)ることすら出来なくなったとき、バセドを始めとする使用人たちは、絶望する私を見て愉しそうに笑っていた。

 すべて────はっきりと脳裏に焼き付いてしまっている。

「イルノラド公爵が…、皇妃一派のせいで崩れた国防のために奔走していたと───いえ、今も奔走していることは知っています。そのために、邸にろくに帰れず、私の状況を気づけなかったと。でも────だから何なのって思ってしまうのです。だって、10年ですよ?────10年もあったのに…。
一度でもおかしいと思ってくれたら───いえ、おかしいと思わなくても、自分で諭そうとか、話をしようとでも考えてくれていたら───簡単に発覚していたはずなんです。結局、あの人は私のことなど、どうでも良かったということでしょう?
イルノラド公爵夫人だってそうです。あの人が神託のせいで家族に顧みられずに育ち、だからこそ神託に固執してしまったということは知っています。
でも、だったら───顧みられない苦しみは知っているはずでしょう?それなのに───自分の娘に、どうしてあんな仕打ちが出来るの?
公子も公女も、イルノラド公爵夫人にそう言い聞かせられて育ったから、ああいう風になってしまったと解っています。
でも、だからって───何であんな嘘が平気でつけるの?どうして───あんな風に嘲笑ったり出来るの…?」

 言いながら、自分の感情が(たかぶ)っていくのが判ったが、止められなかった。

 昂った感情が流れ出るように、涙が溢れて、零れ落ちていく。


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