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コントラクト・ガーディアン─Over the World─
第一部 皇都編
序章―除籍と絶縁―#3
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このベスト」
シェリアに手渡されたベストを見る。ベストは濃いグレイの色合いで、コートと揃いであつらえたものらしく、同じ意匠の刺繍が施されていて、これまた上品な逸品だ。
「タイはこれ。シャツはわたくしのものの方が良いわね。…さあ、着てみて」
次々に手渡され、言われるがまま着替える。
「悪くはない───悪くはないんだけれど…」
ラナ姉さんが唸るように呟く。
「似合っている───似合ってはいるのよ…。だけどねぇ…」
シェリアが残念そうに溜息を
吐
(
つ
)
く。
シルムは私より少し身長が低いくらいなので、着丈は問題ない。が、やはり男と女では体形が違う。そう、胸が邪魔をして、ベストもコートも閉まらないのだ。────決して太っているわけではない。本当だよ?
「っく、わたしより3つも年下なのに…っ。羨ましい……」
ラナ姉さんが、暗い表情で何か嘆いている。
「シルムのでは駄目そうね…。お父様のでは大き過ぎるし、わたくしはドレスしか持っていないし…」
何か───何かいい方法はないかな…。
あ───そうだ。
「ねえ、シェリア。コートって絶対に閉めてないといけないの?」
「…いいえ。ベストやタイを豪華にして、わざと開けて見せている人もいるわ」
「それなら───こういうのはどうかな。ベストの前部分だけ切り取って、コートの内側に縫い付けて一体化させちゃうの」
◇◇◇
「やあ、リゼ。首尾は上手くいったそうだね。話はシェリアから聞いたよ」
建国記念日までの一週間、ロウェルダ公爵邸に世話になることになり、一度街に出て幾つかの所用を済ませてから、また公爵邸へ戻ると、シェリアの父親であるロウェルダ公爵が帰宅していた。
「おじ様、お仕事お疲れ様です。そして、お邪魔しています」
ロウェルダ公爵───シュロム=アン・ロウェルダは、この国の宰相を務めている。血筋も、イルノラド公爵家などとは違い、臣下に下った皇族を始祖に持つ。
シェリアにそっくりの金髪金眼を持ち、人目を惹く美貌の優男であるが、その柔らかな表情と口調とは裏腹に、一国の宰相に相応しい切れ者だ。
「そんな他人行儀な。いつでも来ていいんだよ」
おじ様は────というよりこの公爵家の人々は、使用人たちも含めて、どうも私がシェリアを助けたことを恩に着ているらしく、皆私に優しくしてくれる───というか甘い。
「ところで───ルガレド皇子殿下の件も聞いたよ」
「おじ様はご存じなかったのですか?」
おじ様には、イルノラド公爵家と絶縁する方法を直前まで相談していた。
その際にルガレド殿下の親衛騎士の件を私に教えてくれなかったことを、ちょっと疑問に思っていたのだ。
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