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金木犀の許嫁
第三十六話 織田作之助の街その六

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「京大はね」
「あまり母校と考えられていないね」
「だから織田作さんの母校っていうと」
「この学校だね」
「そう、高津高校よ」
 今自分達が前に立っているというのだ、外見だけを見ると何処にでもある様な普通の雰囲気の学校である。
「ここなのよ」
「そうだね」
「そしてね」
 夜空はさらに話した。
「織田作さんはこの辺りで育ったのよ」
「天王寺の方で」
「お姉さん達に可愛がられてね」
「お姉さん達、そういえば」
 佐京は夜空の今の話を聞いて言った。
「あの人ご兄弟は」
「女の人ばかりだったのよ」
「そうだったね」
「確かお姉さんお二人おられて」
 夜空は織田の兄弟について詳しく話した。
「妹さんもおられたのよ」
「女の人に囲まれていたんだね」
「それでね」
 夜空はさらに話した。
「二番目のお姉さんが特にね」
「織田作さんを可愛がっていたんだ」
「そうだったのよ」
「成程ね」
「それでその人がね」
 織田の次姉がというのだ。
「夫婦善哉の蝶子だってね」
「言われてるんだ」
「そうなのよ」
「そうだったんだ」
「性格や外見がね」
「そのままなんだ」
「小説に出て来るね」
 その夫婦善哉にというのだ。
「そう言われてるのよ」
「面白いね」
「それでこの学校を出て」 
 高津高校をというのだ。
「それでね」
「京都に行って」
「結核に感染して」
「中退したんだね」
「結果としてね」 
 それで学業への熱意を失っていったのだ。
「それでそこで奥さんになる人と知り合って」
「喫茶店で働いていた」
「その人が悪い人と付き合っていて」
「それでね」
 そうなっていてというのだ。
「色々とね」
「揉めたんだったっけ」
「そうなって」
 そしてというのだ。
「何とかその人が悪い人と別れて」
「一緒になれたんだったね」
「そう、そしてね」
「夫婦で暮らしはじめたんだね」
「そうだったのよ」
「いいお話だね、ドラマみたいだね」 
 佐京はここまで聞いてこう言った。
「本当に」
「そうね。じゃあ今度はね」
「別の場所に行くんだね」
「そうしましょう」 
 こう話してだった。
 夜空は佐京を口縄坂に案内した、その坂は曲がりくねっていていて佐京はその坂を前にしてこんなことを言った。
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