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ボロディンJr奮戦記〜ある銀河の戦いの記録〜
第108話 凶報
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 宇宙暦七九一年 五月 ハイネセンポリス

 投資ファンドによる新会社の設立と、その新会社がSRSBの傘下に入ったことは、同盟経済のごくごく一部に嵐を巻き起こした。何しろファンド総額がSRSBの時価総額の三倍以上。SRSBが今最も注力しているのが何であって、新会社が元は資材会社の開発部門であることを十分に承知している造船大手各社は総毛立った。

 新型高速巡航艦計画は本来次期標準型巡航艦計画とは別物であって、軍の戦術的要求を満たす試験部隊用、あるいは既存艦を改造して作られる嚮導巡航艦に代わる新しい艦種の試験計画と思い込んでいた大手各社の首脳部は、ファンドに集まった三三億ディナールというとんでもない額を見て、自社の開発計画をこのまま進めるか中断するかの決断を迫られた。

 彼らの誰もがインサイダー取引であろうと理解していたが、この大波に乗り遅れてはならないことも分かっていた。業界中堅のSRSBには次々と、大手各社の経営管理者や金庫番・開発主任が乗り込んできて土下座してまで『スパルタ王妃』計画を確認し、何故SRSBが首謀して無謀な投資ファンドを募ったのか同業者として十分すぎるほどに理解して、投資ファンドへの自社からの出資と、それに伴う『まだ制式採用されていない』新型高速巡航艦のOEM生産契約を結んだ。

「アナタが何かを為さんと動く時、周囲がみんな引き摺られ実力以上の事を成し遂げ、余計なものまで引っ張ってきて、予想した未来の斜め上に事態が進行してしまうのは、重々承知していたつもりなんですがね? ちょっと今回は酷過ぎやしませんかね?」

 心温まる交流の跡が残る右手を見ながら店から出て来た俺が、人気のない路地裏で無人タクシーを呼んで待っていた時、蟀谷に青筋浮かべたバグダッシュに叩きつけんばかりの勢いで壁に押し付けられ『ドン』された。殺気バリバリの色男に俺は必死に成果を話したので、その怒りは呆れに代わったが、それから三週間が経って事態の進行がハッキリと形になり始めた今日。いつものレストラン『ドン・マルコス』のいつもの特上フルコースを前に、バグダッシュはワインを手酌で飲みながら恨み節を零している。

「直後に種明かしをされたウチ(軍情報部)も大混乱ですけどね。S(中央検察庁)はインサイダーでマル対(捜査対象)をギチギチ締め上げてやろうとしたら、『後ろ』から『ちょっと待って』されて欲求不満が溜まってます。まぁ、これは予想されていたんですがね」
「がね?」
「一番ヤバいのはC(中央情報局)ですよ。ウチと彼らとは普段は仲良しなんですが、今度の一件で真正面から土下座して協力して欲しいって言って来ましたよ。頭を踏んづけようとした足が思わず止まる位には、ウチの上(層部)も彼らに同情しています」

 普段どれだけ『仲良し』なのかよくわかったような気が
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