第一章
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高度成長期のケーキ
昭和三十年代、大阪の街はまだトタンの匂いが残り戦争前の風景と戦争の傷跡と戦後の新しいものが混在していた。
そんな中でだ。鹿野恵美は高校を卒業して梅田のある店に就職したが。
「何かどんどんね」
「色々な店が出来ていってるな」
「ええ、もうね」
家に帰って父の新之助に話した、丸眼鏡をかけた面長で黒髪を後ろで束ねた長身である。父も背は高く黒髪は短く丸眼鏡で娘によく似ている。
「気付いたらね」
「新しいお店が開店していて」
「変わっていってるわ」
「今はそうだね」
「私が高校に行けて」
実は中学を出て終わりだと思っていた。
「それでね」
「卒業出来てだね」
「嘘みたいだし」
このことがというのだ。
「もうね。それで百貨店に行けば」
「梅田にもあるね」
「ええ、そこに行ったらレストランがあって」
そうであってというのだ。
「カレーやオムライスを食べられるのよ」
「洋食だね」
「ハンバーグなんてね」
この料理のことも話した。
「食べられるし」
「夢みたいだね」
「めざしとかコロッケじゃないのよ」
レストランにあるメニューはというのだ。
「カツレツもあって。ナポリタンとかもね」
「スパゲティだね」
「あって。それで百貨店の中にケーキ屋さんがあるのよ」
「ケーキ屋さん!?」
「そう、あっちのお菓子よ」
「洋菓子だね」
「そのケーキを作ってね」
そうしてというのだ。
「売っているのよ」
「そうなんだ」
「それでね」
恵美は父にあらためて言った。
「今度お給料が入ったら」
「ケーキを買ってくるんだ」
「お父さんとお母さんと私と」
そうしてというのだ。
「和博と正美の分もね」
「合わせて五つだね」
「家族全員分ね」
それだけだというのだ。
「買って帰るわね」
「それで皆で食べるんだね」
「そうしましょう」
「高いよね」
父は娘の言葉に心配そうな顔で問うた、西淀川の家は戦前からあり空襲で燃えなかったが色々ガタがきている。
「そんなお菓子は」
「高いけれど私が出すから」
「家にお金を入れて」
「私のお小遣いの分でね」
「大丈夫かい?」
「それ位のお金はあるから」
父ににこりと笑って答えた。
「お小遣いでもね」
「いいんだ」
「そう、だから皆でね」
「ケーキ食べるんだね」
「そうしましょう」
今度給料が出たらとだ、こう話してだった。
恵美は実際に給料が出ると勤めている店の近くにある百貨店のケーキ屋で家族の数だけのケーキを買った、そして揺らして形を崩さない様に注意してだった。
家まで電車に乗って帰ってだ、そうしてから夕食の時に出すと。
自分そっくりの母も娘も父親そっ
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