第86話「荒らし殲滅プロトコル発動」後半
[4/5]
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
「私が、《滅びの方舟》を蘇らせてしまったばかりに。……愛しい貴方に、千年もの憎しみを抱え続けさせてしまった」
「……違う」
ポツリと、ズォーダーは否定する。それでも、サーベラーの口は止まらない。
次第に、耐え兼ねたのか、涙がポロポロと溢れ始める。これまで、ズォーダーが幾度となくサーベラーの命を奪った際に見てきた涙であった。
それを見たズォーダーは、己の内にある憎しみと絶望に対する感情が揺らいでいく。
愛を育んだ女性を奪われた事に対する、激しい憎悪で動き続けて来たズォーダーであったが、それは同時に、サーベラーに対しても相応の時間と記憶を重ねさせてきた証しであり、…彼女を己の手で殺した記憶も重ねている。
サーベラーも、記憶が戻るたびにズォーダーを静止し、彼に殺される記憶があり、重ねていった。
既に、《滅びの方舟》の崩壊が始まっている。
「私が止めるべきだったのです。あの時、最初に《滅びの方舟》を見つけた時に。貴方には、そのような感情を持って生きて欲しくなかった。…なのに私は……貴方を止めることが出来なかった」
そう語る彼女の姿が、やがてあの生きていた頃の、オリジナルのサーベラーの姿へとなった。自分が押し付けたに等しい行為を。サーベラーは自分の責任だと涙を流す姿に、ズォーダーも耐え兼ねた。
「違う!」
今度はハッキリとした口調で、サーベラーの謝罪を遮る。気づけばズォーダー自身の頬にも、流す事など絶対に無かった筈の涙を、彼はサーベラーと共に流していた。
「お前は、この私の願いにただ従っただけなのだ」
「しかし――!?」
サーベラーの身体を抱き寄せるズォーダー。それに驚く、サーベラー。
この千年もの間、決して行わなれなかった抱擁だった。ズォーダーは逞しい腕と胸板に、サーベラーを出来る限り優しく、想いを強く乗せて包み込んだ。
「もういい」
驚き、ズォーダーを見上げるサーベラー。彼女はフッと笑みを零して、両手で彼の頬を優しく添える。
戦う事しかしなかったズォーダー。人間らしく、愛する事を覚えた、素晴らしいあの時代へ生きた彼が戻ってきた瞬間だった。
「もう、いいんだ……」
崩壊を告げる音が聞こえる中、少しして二人を包み込む強烈な光が漏れ始める。
しばらくすると、光のせいでお互いの姿は見えなくなってしまうが、二人にとっては些末な事。それでもお互いが、そこにいるという暖かな感覚だけは伝わり続けている。それで充分なのだ。
命の灯が尽きるその瞬間まで、抱きしめるズォーダーとサーベラー。
「私は、お前をずっと、愛しているぞ、サーベラー」
「ふふっ、その言葉、そっくりお返しします、あなた」
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2025 肥前のポチ