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現実世界は理不尽に満ちている!
第86話「荒らし殲滅プロトコル発動」後半
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 「私が、《滅びの方舟》を蘇らせてしまったばかりに。……愛しい貴方に、千年もの憎しみを抱え続けさせてしまった」
 「……違う」

 ポツリと、ズォーダーは否定する。それでも、サーベラーの口は止まらない。

 次第に、耐え兼ねたのか、涙がポロポロと溢れ始める。これまで、ズォーダーが幾度となくサーベラーの命を奪った際に見てきた涙であった。
 それを見たズォーダーは、己の内にある憎しみと絶望に対する感情が揺らいでいく。

 愛を育んだ女性を奪われた事に対する、激しい憎悪で動き続けて来たズォーダーであったが、それは同時に、サーベラーに対しても相応の時間と記憶を重ねさせてきた証しであり、…彼女を己の手で殺した記憶も重ねている。

 サーベラーも、記憶が戻るたびにズォーダーを静止し、彼に殺される記憶があり、重ねていった。

 既に、《滅びの方舟》の崩壊が始まっている。

 「私が止めるべきだったのです。あの時、最初に《滅びの方舟》を見つけた時に。貴方には、そのような感情を持って生きて欲しくなかった。…なのに私は……貴方を止めることが出来なかった」

 そう語る彼女の姿が、やがてあの生きていた頃の、オリジナルのサーベラーの姿へとなった。自分が押し付けたに等しい行為を。サーベラーは自分の責任だと涙を流す姿に、ズォーダーも耐え兼ねた。

 「違う!」

 今度はハッキリとした口調で、サーベラーの謝罪を遮る。気づけばズォーダー自身の頬にも、流す事など絶対に無かった筈の涙を、彼はサーベラーと共に流していた。

 「お前は、この私の願いにただ従っただけなのだ」

 「しかし――!?」

 サーベラーの身体を抱き寄せるズォーダー。それに驚く、サーベラー。
 
 この千年もの間、決して行わなれなかった抱擁だった。ズォーダーは逞しい腕と胸板に、サーベラーを出来る限り優しく、想いを強く乗せて包み込んだ。

 「もういい」

 驚き、ズォーダーを見上げるサーベラー。彼女はフッと笑みを零して、両手で彼の頬を優しく添える。

 戦う事しかしなかったズォーダー。人間らしく、愛する事を覚えた、素晴らしいあの時代へ生きた彼が戻ってきた瞬間だった。
 
 「もう、いいんだ……」

 崩壊を告げる音が聞こえる中、少しして二人を包み込む強烈な光が漏れ始める。

 しばらくすると、光のせいでお互いの姿は見えなくなってしまうが、二人にとっては些末な事。それでもお互いが、そこにいるという暖かな感覚だけは伝わり続けている。それで充分なのだ。

 命の灯が尽きるその瞬間まで、抱きしめるズォーダーとサーベラー。

 「私は、お前をずっと、愛しているぞ、サーベラー」

 「ふふっ、その言葉、そっくりお返しします、あなた」


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