4.降谷さんの困惑。
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どう考えても手慣れてなんかいない。
加えて、極度の緊張が見えた。
「……少し、落ち着け。深呼吸」
彼女は素直に細く長く、静かに呼吸した。
少し置いて、彼女の背に回って構えや姿勢を更に修正していく。
「どこかにだけ変に力を込めずに、全身で身体を支えるつもりでいろ」
「はい……!」
そしてまた、一呼吸置く。
……確かめるべきことのためには、彼女を支えてはならない。忸怩たる思いを抱えながら、彼女から離れる。
「よし。それじゃ、カウント3で、引き金を引くこと。あまり深く考えなくていい、落ち着いて、撃つんだ」
「は、い……!」
「────3・2・1」
パァンと乾いた音がした。タイミングは完璧だ。しかし。
僕は彼女の顔の前に手のひらを滑り込ませた。予想──というより、願い、かもしれない──通りに銃身が思いきり跳ねてくる。ゴーグルをしているとはいえ、こんなものに当てるわけにはいかない。
衝撃から少し後ろに尻もちをついた彼女が右肩を抑えていた。
「────ッ……」
声になっていないが悲鳴が聞こえた気がした。
「……やっぱり、ここで肩が外れるんだな。嵌め直すから、一応奥歯を噛むんだ」
ギリ、と彼女が奥歯を噛みしめたのを確認して、僕は慎重に関節をもとに戻す。
「悪かったな。しかしこれで分かった。お前は」
「いえ、きっと分かっていません」
彼女は何故か、打って変わって強い眼をしていた。しかし表情には苦渋が滲んでいる。
「……的を、見てみてください」
「……?」
僕は言われるままにレーンの先を覗いて、愕然とする。
「……ど真ん中!?」
そのレーンの的には先ほどまで絶対になかった銃痕だった。
理解不能な事態。しかし、理解不能だからこそ今はそれは放置すべきだ。
「……いや、それよりひとまず肩の手当てを……」
言おうとして、僕は目を見張った。
彼女の手に、またあの物々しいリボルバーが出現していた。
小型のライフルほどのサイズはある。それを彼女は、肩が外れているにも関わらず右手のみで持っていた。それも、先程は重そうだったのにまるで平気な様子だ。
「……やっぱり……撃たなければいけないと思うと、出て来るみたいです。そして」
僕は、目を疑った。
美しい装飾の施された黒い銃はなくなり、代わりに現れたのは彼女の身長ほどもある長大で物々しいスナイパーライフルだった。構えも堂に入っている。
しかしそれはあの時と同じように光になって霧散していった。
彼女はふにゃりと座り込んだ。
「……なんなんでしょう、これ……! 私、人間じゃ、ないのかな……?」
そう言って顔を覆う彼女の姿は痛ましかった。
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