2.降谷さんの刻苦。
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る。
「……おやすみなさい」
「あぁ、ゆっくりおやすみ」
そう言ってふわりと額のあたりに彼が降らせたのはきっと唇。
彼女は顔が熱いのを自覚しつつ、静かに目を閉じた。
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翌早朝。既に日が短くなる時期とはいえ東京は日本でも東に位置する。日の出は多少早い。代わりに日の入りも多少早い。
朝の光がカーテンの隙間から細く降る中、まだ彼女は健やかな寝息を立てていた。彼はそっとその頬を撫でてみる。彼女が起きる様子はない。
(……あまり仲を深めすぎるのも良くないんだろうが……この年頃であそこまで熱烈に口説いた人間が、家に泊めて何もしないのはおかしい、気がする)
言い訳、なのかもしれない。必要なのだと。
そんな感傷に彼は苦笑した。最初からこれではきっとやっていけない。自分の目標とされる潜入先は今のところどうやら犯罪組織のようだから、もっと後ろ暗いことが山と待っているだろうに。
(……きみは何故こんなことに手を染めたんだ)
原因については少しだけ分かっている。
研究を思う存分やれること、そして評価されることにつられたと言っていた。
それ以前に。
彼女自身が幼いころから付きまといに連なる様々な迷惑行為の被害を受けていたのもあるだろうが、きっと、何より大きいのは両親のことがあるのだろう。
彼女の見目麗しさは両親から引き継いだもので、そして、二人は付きまといから発展した煽り運転で命を落としていた。彼女が高校二年の時のことらしい。
祖父母も早くに亡くしていたらしい彼女は他に親戚もなく、天涯孤独になった。残された財産が潤沢だったおかげで一人暮らしを経て海外留学、そこからの研究職、という経歴を積むことができたようだ。
だから彼女は自身に出来る範囲で防犯のための研究を行ってきたのだろう。方向が過激すぎるが。
(『だれもこまらない』か……)
独りというのは時に暴走する。ひた走るのには良いのだろうが、歯止めが利かなくなることもある。自分の視点以外を得づらいのだから。
家族がいなかった。勉強、あるいは研究に没頭しすぎて友人を作らなかった。その道のずば抜けた知識を得てしまい師となる人を見つけられなかった。
(他のことになるとどこか抜けてるのになあ……)
するすると、柔らかで滑らかな彼女の髪を弄ぶ。
そうしていると、ふわりと彼女が目を覚ました。
「おはよう」
柔らかく笑いかけて言うと、彼女は幾度か瞬きをした。そしてやっと現状を理解したというように少しだけ目を見開く。思わず彼はくすりと笑った。
「寝ぼけてる?」
「い、いえ……おはようございます」
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