2.降谷さんの刻苦。
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。言ったろう? 俺はそんなに弱くないって」
そうでしたね、と言おうとして彼女ははっとする。
彼の腕には、しっかりと彼女の爪の跡が残っていた。
思わず彼女は彼の背ににじり寄る。
「これ……私が、爪で……」
そっとその近くに手を添えると、「あぁ」と彼の苦笑が聞こえる。
「たいした傷じゃない。気にしないで」
「でも……少し、血が」
「大丈夫だって。殴り合いの喧嘩に比べれば可愛いものさ。すぐ治る」
「……」
──きっとそれは、情事の余韻のせいだった。
彼女はぺろりとその傷を舐める。触れることに違和感を感じられなくなっていた。どうにかしたいと、思ってしまっただけ。
彼は首筋にぞわりと走る熱に目を見張る。
そして尚もちろちろと舐める彼女の腕を捕まえた。
「……何をしてるの?」
「舐めたら、治るかなって……」
「ねえ、今まで何してたか覚えてる?」
「え……?」
もう一つ腕を捕まえて彼は彼女をベッドに押し倒すと、半分だけ上に圧し掛かる。
「そんな可愛いことされたらまた煽られるんだけど」
「……!」
薄青の瞳の中に見えたのは先程と同じギラついた光。
(な、なんで……)
それよりも。
「あ、う……これ以上は、私、死んじゃう……かと……」
困り切った顔でそう訴えられて彼はくすくすと笑い始めた。
「体力ないもんね……」
あっさり彼女から離れた彼はサイドテーブルに置かれたグラスをひとつ取って彼女に示すように小さく揺らす。
「きみも少し飲む?」
「はい……一口くらいで、よく眠れそうな気がします」
即答する彼女に、本当に酒が好きな人だなあと彼は思った。
彼女の望んだ通り一口程度注いで渡し、自分の分を飲み干して、空になった二つのグラスを再びサイドテーブルに置いて。
二人して同じ布団に潜り込む。十月も終わりに近づく今はブランケット一枚では足りない。ふわりと軽いが厚みはあるものを上から被り、彼は彼女を腕の中に収めた。
「腕、しびれませんか……?」
彼がくすりと笑う。
「そんなヘマはしない」
何より、と彼は続ける。
「きみを離したくない」
「!」
優しい顔で間近で言われて彼女はさっと顔を隠した。といってもそんなことをすれば彼の胸に顔をうずめることになるのだが。
彼の腕がきゅっと少し狭まる。
「ふふ……かわいいなぁ……」
しみじみしたふうな声で言われてそわそわする。
(これは、作りもの。安室さんは、お仕事)
それを忘れたら一瞬で本当に堕ちる気がした。
彼女はこれは演技、と思いながら、すり、と彼の胸に擦り寄
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