1.降谷さんの初陣。
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あれ以降、あれこれとカクテルについて語り合っているうちに、何気ない接触では妙にびっくりされないようになっていった。ただし意図的に手を伸ばしかけると未だに避けられる。そして相変わらず彼女の研究については少しも触れさせてくれない。ストレートに聞いても、探ってみても、だめだった。
アルコールその他さまざまな成分の話をしていると、多少食い込めそうにはなるのだが、うまく躱されてしまう。
「……なかなか気を許してもらえません。面目ありません」
人心なんてそう転がせるものじゃない。相性なんかも考えればなおさら確実なことはない。とはいえ、焦りが無いと言えば嘘になる。……が。
「お前は根っから良い奴だからな。むしろ彼女は絆されてるんじゃないかと感じた」
相談した先輩から返ってきたのは意外な言葉だった。
今でもまだ、たまに先輩が監視をしていることもあるらしい。
「……え?」
「彼女も危ない橋を渡っている自覚はあるんだろう。だから、よく知らない他人には素性すら明かさないし、多少近づいた相手には……危険が及ばないよう、滅多なことを語らない。そういう類の人間と見える」
僕は目を丸くする。
「ぽやぽやしているようでいて、一番厄介な相手だな」
「ぽやぽや……」
ふっと先輩は笑った。
「様子を見ていて本気で願ったよ。彼女が自ら進んで組織に協力しているわけじゃないことをな」
「……」
そう、それすらまだ、分からないんだ。
先輩がすっと真剣な顔をする。
「降谷……彼女の取り引き相手とおぼしき男が、再び米花町に入ったそうだ」
僕は絶句した。ひらりと先輩が一枚の捜査資料を渡してくれる。そこには彼女の時の資料と同じ程度の、一人の男の情報が詰まっていた。目つきの悪い黒服の、目線の合わない顔写真が貼り付けられている。
そして先輩は何かを机に置いた。成分表のようなものも添えられていて内心少し穏やかじゃなくなる。
「彼女とお前の優しさは本件の上では相性が悪い。すべて終わった後に嫌われる覚悟があるなら早々に一線を越えろ。……勧めたのは俺だ」
「……!」
「他に手がありそうなら頑張ってみろ。……嫌われるのはな、どんな奴でも案外堪える。そういうのは自分のためにも、相手のためにも、極力排除しなきゃならない。そして公安だからってバンバン違法行為をしろなんてことはない。だが、時間がない。最悪彼女の技術は組織に流れ、そして彼女も死ぬ」
「……」
「……ああいう人は、少し近づいたどころじゃなく恋人くらいになれば、頼って全部話してくれるかもしれない。……だが忘れるな。お前が惚れるなよ」
「その点は問題ありません
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