1.降谷さんの初陣。
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下げてるみたいな」
あんまりよく知らないけど知ってるぞ感を出されると誤魔化し難いんだよな。
「……!」
彼女は眉根を寄せて困り顔をした。あるのを知られてるなら、ってところだろう。チョロい。大丈夫か。大丈夫じゃないからこんなことになってるか。
彼女はまたおずおずとカバンからIDカードを取り出した。それを受け取って眺める素振りをする。
「ふうん。本当に『学生証』ではないね。まあ、きみが社会人だってことは分かったけど……」
そう言って彼女にIDカードを返すと、僕は『俺』の免許証をすっと彼女に示した。
「年下だから、大人しく奢られてなさい」
「嫌です! 二個しか違わないじゃないですか! あっちがう、私誕生日まだだから一個しか」
「どっちにしろ年下だ。それに、分担すると支払いが面倒だ」
「私が払います!」
「それはムカつく」
「ええ……!? 世間ではこう、奢ってもらって当然という女性をこきおろす風潮がですね……! 私の名誉が……!」
「誰に対して惜しむの? その名誉」
「ウッ……!」
友達いないんだもんな。可哀想だな。
「奢られたくないから、もう連絡しません」
「交番に突き出されたい? 家まで追いかけられたい?」
「っっっもううううっ、なんですかその頑固さと極端さっ」
「俺には名誉を惜しみたい友達がいっぱいいるんだ。観念して諦めて」
経費で落としたりしないからいいだろ。僕の意地みたいなものだ。面倒なのも本当。
「……きみと話すのはなかなか楽しいんだよ。これでもね」
酒の話とかは楽しかったからな。
彼女は少し面食らったような顔をした。本当、このへんはチョロいんだよな……。
「ひとことよけいです」
「ふふっ……それに、薬の研究員とかしてるなら、もっと難しい話題にしても平気だろう?」
「……難しい話題?」
「きみと酒の話をするのは楽しい。そのうちカクテル作りの良い案が出てきそうじゃないか。成分とかまで考えての、さ」
「……お仕事に必要な協力でしたら、お金を取らなきゃいけなくなりますよ」
それを奢るだの奢られるだのに当てた気分になってくれればいいんだが、彼女もたいがい頑固だしそう甘くはいかないんだろう。だから、話題に出ただけのことにする。
「まさか、趣味だよ。ウチの店で重要なのは味だのなんだのじゃなく、雰囲気と値段だからね」
「……い、嫌なことを聞いた気がします……」
はったりだけど。そもそも『ウチの店』なんてない。そんな横柄な店がそうあるとも思わない。だが興味がないのかどこの店かなんて彼女が聞いてきたことはない。探られそうなそぶりさえない。きっとこれからもないんだろう。
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