1.降谷さんの初陣。
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すか? ……認めてもらえない薬剤を実際に試すためでしょうか?」
先輩は首を振った。
「分からない。身辺捜査が始まってからも何度か絡まれていたようだが、誰かの助けが入るか自力でどうにか逃げるかしていて、妙な物を使って撃退した様子はないそうだ。しかし薬剤使用を狙っていないという保証はできない」
ないことの証明は難しい。
「気に入りの店もあるみたいでな。単に酒が好きなだけかもしれない。……だといいなと思ってるが」
先輩が苦笑して、僕も苦く笑った。楽観できるわけはないもんな。
「……彼女が辟易しているであろうナンパを装うのは警戒を解く手間を考えて除外します。……絡まれたのを助けに入ったら比較的気を許してくれますかね。かといって正義感が明らかに強そうだと、取引について口を割ってくれないかもしれませんね」
「正義感が強そうなヤツは組織潜入にも向かないだろうな。……あまり偽人格は増やすものじゃない。少しずつ自分が分からなくなって潜入にも日常にも支障を来しだす」
「承知しました」
必要があれば百人だって演じてみせるが、慢心しないに越したことはない。
「そしてまあ……薬剤の現物はともかく、自分が作ったデータなんてさくっと手渡しできてしまうくらいのものだ。ゆっくり友情を築くような時間は恐らくない。独り暮らしで、恋人はいないらしい、堕とせ。それができそうな人格がいい」
内心息が詰まるが状況は理解できる。二十一なんていうまだまだ成人したばかりの娘の心を弄ぶようで気は進まないが、彼女が危険人物と化さないためを思えば、彼女からの僕の印象が汚れることなんて些末なことだろう。
少し考えてから、僕は考えを口にしてみる。
「……インテリっぽくはあっても少し危なそうな性格を作ってみようと思います。真面目過ぎても不真面目すぎても、彼女には近づけないような気がします」
「危なそう、ね。きみはめちゃくちゃ真面目な正義漢のイメージがあるんだけど、でき……いや、警察学校在籍中は色々とやらかしてるんだっけか」
「何のお話でしょうか?」
「……ッフフ」
僕はいたって真面目な人間ですよ?
アイツらが色々やらかしたのに手を貸してただけです。
……なんて戯れ言は口にしない。
先輩もそこを深く追及する気はないらしい。
そんなふうに話しながら、ある程度『俺』を作りあげた。そう、ある程度だけ。
「変に固めすぎると臨機応変にいかなくなるしこれくらいでいいだろう。あとは……きみにはまだ『協力者』がいないからな。尾行だの張り込みだのの探りはこちらで入れる。万一を考えれば、表に出るきみ自身がそういうのをやるのは下策だ。欲しい情報があったら言ってくれ。ああ、怪しまれない範囲なら
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