第107話 まっとうな軍人
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事。力任せに握りつぶしてやりたくなるのを抑えて、ソファから立ち上がり笑顔で握手する。オネーギンの手はざらついていて、ところどころにタコがあるのは、格闘技術のある人間の証拠。それもそのはず原作通りなら七年後に帝都オーディンでランズベルク伯やシューマッハ大佐と共に、金髪の孺子のお目こぼしがあったとはいえ陽動工作も含めて、ニコラス=ボルテックの部下として幼帝誘拐に成功した男。
偶然とはいえ、せめて変装ぐらいしてこないのかと思わないでもないが、俺の名前を知っていて『赤毛のホステス』を用意しているわけだから、世間知らずの青年将校にもう一度手痛い教訓を味合わせてやろうと、高をくくっていると見ていいだろう。
「まぁまぁ、いきなりご用件の話に進むのはなんです。一杯、如何です?」
「いいですね。ピンクのラベルというと、ロゼ・シャンパンですか?」
「えぇ、えぇ。ノンブランドですが八年物のロゼですよ。力強くて芳醇で、これがなかなか」
向かい合う俺とオネーギン氏の間に座る赤毛のホステスが、グラスにシャンパンを注ぐ。蓋は開けたばかりで、グラスは三つともきれいに磨かれていて薬が塗られている気配はない。なので俺は遠慮なく手を伸ばしてホステスの分のグラスを取ると、当然の如くホステスの手は止まり、オネーギン氏の右頬は引き攣った。
「どうしました?」
何事もなかったように俺がグラスを手に持ちながら首を傾けると、ホステスは俺のグラスを手に取って乾杯の音頭を取る。確かにオネーギン氏の言う通り、力強くて芳醇な味が、口の中を滑らかに動き回る。他愛もない季節話を五分。グラスが空になった時点で、ホステスは小さく頭を下げてボックス席から離れて行く。
真っすぐ歩きながらバックヤードへと消えていくホステスの後姿を見送った後、オネーギン氏は早速俺に視線を向ける。先程までの苦労人の叔父さんという目付きではない。やくざ者の一歩手前のような、前世の俺だったらちびって逃げ出したくなるような顔だ。
「国防委員会におられる中佐殿が新素材の件でお出ましになるとは、こちらとしては考えておりませんでしてね」
言葉は丁寧だが、コネ昇進の若造はすっこんでろと顔に書いてある。なので俺は右も左も分からないフリで、表情筋を動かし笑顔を浮かべて応じる。
「そうでしょうね。私もまさか出張ることになるとは思ってもいませんでした。こういう仕事って大抵面倒なんですよね。お互いに」
「……これは『民間企業間の一般的な商取引』です。正直申し上げて軍人さんが干渉(お手伝い)されるようなお話ではないかと」
「その商取引の内容が軍艦艇設計資格を有する造船会社に、宇宙戦闘艦艇用の新装甲材を持ちかけた後で法外な額を請求したという話ですからね。無視するわけにはいかないわけですよ」
「法外な額かどうかは見解の相
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