第107話 まっとうな軍人
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映える眉目整った美女が俺を出迎える。
落ち着いた間接照明。繊細でありながら深みのある木工細工と鏡の組み合わされた壁。複雑な唐草模様の入ったソファ。ソファと色違いで同じデザインできめの細かい絨毯。客は少なく、同様にホステスの数も少ないが、その分距離もあって他所の人間に話し声が聞かれることもない。
「お連れ様はもう少しお時間がかかると伺っておりますが……」
下品さはなく自然な流し目。触れない距離に寄った肩。濃厚な、深みを感じるラベンダーの香り。初めて会う相手であっても、傍にいるだけで満足感を味わうことができる最高級のホステス。見た限り歳は俺と同い年ぐらいだろう。若さと艶さが釣り合っている。
だがビリーズ&アイランズ・マテリアルよりも売り上げが少ないにも関わらず、これほどのホステスが在籍するクラブを即座に用意できる資材会社というのもなかなか笑える冗談だ。もしアイランズがこの店に来たら、専務のハワードさんにねだるかもしれないが、俺は一応身の程は知っているつもりだ。
何も応えずぼんやりとした表情で座る俺に、赤毛のホステスはより距離を詰めて顔を覗き込んでくる。こういうところは初めてで、緊張しているのかしらといった余裕の笑みを浮かべているが、俺が視線を合わせずに髪のひと房を手に取ったのを見て、首を傾げる。
「赤毛の髪はお好きですか? お客様」
「本物ならね」
地毛は赤ではなく黒に近い栗毛だろう。随分と慌てて染めたのか、手に取った中に地毛の色と染めた色が交互になっている髪が数本あった。
「上品な貴女は地毛が一番似合ってるよ。それに深紅のパーティードレスより、少し明るい茶色に黒の模様が入ったブラウスの方がいい。そちらの方がずっと映えるし好みだね」
彼女自身ではなく彼女を『そういう姿』にさせた奴の、俺に対する舐め切った対応にブチ切れ寸前だが、怒りを命令されただけの彼女に向けるわけにもいかない。表情筋を操作して師匠直伝の「困ったね」といった苦笑を浮かべると、彼女の顔には一瞬驚愕が浮かんだが、すぐに収めて「お酒をご用意しますね」と言って少し離れて座ってウェイターに合図を送る。
そしてウェイターはシャンパンだけでなく、一人の男を連れて席にやってきた。
「いやぁ、こちらがお呼び立てしたのに、お待たせしてしまって申し訳ない」
くすんだ金髪。太い眉に下がった目尻。やや張り出した頬骨とそれに引き摺られるような皺の寄った頬に割れた顎。いかにも苦労人といった顔つきの男が、茶色の中折れハットを取りながら挨拶してくる。
「初めまして、ヴィクトール=ボロディン中佐。プレヴノン・MM社の、エヴグラーフ=オネーギンです」
「どうもエヴグラーフ=オネーギンさん。こちらこそお時間をいただきありがとうございます」
挨拶は大
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