第107話 まっとうな軍人
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し込み、空調も送風に変わっているにもかかわらず、吹雪のような凍える冷風が俺の執務室を吹き抜けたのは、気のせいではなかった。
◆
翌日、遠い処に住むお友達とこういう話をして『商売』していませんかとトリューニヒトに尋ねると、「それは惜しいことをした」と返ってきた。冗談だか本気だかわからない回答であったが、造船会社を救うことと、資材会社にお灸を据えることにはとりあえず同意してくれた。ただし今後のこともあるので「あまりやりすぎないように」との釘も刺されたが仕方ない。
その後で連絡したラージェイ爺は、出資に関しての取り纏めに同意してくれた。想定される資材会社の背後についてあえて俺の妄想と断ってから話すと俄然やる気を出したみたいで、一〇歳は若返ったように視線が鋭くなり、小さな居酒屋から俺でも知っているような大企業のOB達に連絡を取り始めた。ひと稼ぎを考えているのは間違いないが、少なくとも国内で金は回るだけマシだ。その代わりこの時点で俺は、明らかな犯罪者となったわけだが。
ついでなのでラージェイ爺には積極的に動いてくれたお礼として、俺もサンタクルス・ライン社の株式名義を今一度洗い直すことをおススメした。どんな小さい投資会社でも念入りに。明確な証拠など何もないが、洗い直すだけなら通常の業務の内だから別に何の問題もない。
それからラージェイ爺が推定したお財布と現状の交渉状況のつり合いの確認に造船会社……ハイネセンポリスから五〇〇〇キロ離れた別大陸にある、サウスリバー・シップビルダーズ(SRSB)の「ハイネセン本社」を訪れた。待っていた社長重役一同は俺を、諸手を上げて出迎え、最終的な落としどころについて確認する。最悪は会社が大手傘下となる可能性だが、子会社として一定の独立性を維持できるよう取り計らうことを告げると、社長は泣きながら俺の両手を握った。
これらの準備を終えて再びハイネセンポリスに戻った俺は、資材会社に一件についての処理について連絡を取った。会社に直接乗り込んでやっても良かったが、軍人が現場に直接乗り込んでトラブルが起きるのはなるべく避けたい。向こうもそう考えたのか、あるいは別の考えがあるのか。勤務時間外の夜遅くハイネセンポリスから少し離れた歓楽街の一角にある、高級クラブで会いたいとの返事が来た。
一応の危険性も考え、バグダッシュにこれまでの時系列を簡単なレポートにして送っておき、失敗した時の後始末(遺言状)を一方的にメールで送った後、俺は髪をオールバックに纏め、濃紺のタートルネックとグレーの上下に身を包み、指定された高級クラブへと足を運んだ。
「ようこそおいでになられました。さぁ、どうぞ」
扉を開けると、深紅に染め上げられ光輝く正絹のパーティードレスに身を包んだ、茶色の入った真っすぐな赤毛の
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