第107話 まっとうな軍人
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内査察の実施、造船会社へは軍部から財務監察要員の派遣し、国防予備費からの緊急借款を行って一時的な国有化という手もあるかなと」
「我々財務委員会を鉄砲玉にして、軍部から用心棒を派遣するか。それだと統合作戦本部と財務委員会に通す必要があるだろう……パルッキ先輩も地域開発委員会の同期も言っていたが、君は軍や政治権力の市場介入についての敷居が随分と低いな」
「自由で開かれた市場経済が救えない人間を救うのが、国家権力の役割だと思っているからね」
「考え方は正しいが、拡大解釈だけはしてくれるなよ。君はともかく、大抵の軍人は自分の日常を経済に当てはめて考えるきらいがある」
確かに原作でそれをやってくれた男が隣の部屋にいる。はぁ、と一つ溜息をつくと、この後俺がやらなければならないことをざっと頭の中にリストアップする。まずはトリューニヒト、次にラージェイ爺、そして造船会社、最後に資材会社。足りない時間を縫って行うスケジュール調整に、思わずチェン秘書官がもう一人欲しいと思ってしまう。
「……事が上手く運んだら教えてくれる秘匿情報については期待している。私からも企画課長にこの状況について進言する。参考となる資料と経緯のレジュメを作ってくれるならば、なるべく早く用意して送って欲しい。こういう場合、財務委員会側の査察官は言い出しっぺが担当することになるからな」
だいたい話の流れが決まって、誰も補充しない最後の一枚になったクッキーにお互いがどうぞどうぞし、結局手に取ったモンテイユ氏が口に運ぶと、ソファから腰を上げそのついでとばかりにジャスミンティーの残っているポットの蓋を開けて言った。
「君の秘書官だが、口の堅いのがご入用なら財務委員会から廻してもいいぞ? パルッキ先輩がいなくなってから、中堅以下の若い女性総合職の士気が目に見えて落ちていて、我々としても少し困っているんだ」
「ご配慮ありがたいが、お断りするよ」
今年八月には最前線に赴くことは言う必要もないが、そんな短い期間であろうと予算審議で少しでもキャリアを積まなければならない若手官僚に、不良軍人の下に入って慣れない仕事してもらうのは心苦しい。
「手を出してパルッキ女史に密告でもされたら、今度はマーロヴィアで機雷掃除をする羽目になってしまう」
「パルッキ先輩がそんな生易しいはずないだろう……」
軽い冗談で応えたつもりだったが、モンテイユ氏はシラケた顔つきでやや薄目のビジネスバッグを片手に、何故か肩を落とし哀愁漂う声色で呟いた。
「パルッキ先輩の可愛がっていた後輩に手を出した翌朝。誰も出勤していないはずの職場の自分の机の上に、結婚情報誌と旅行雑誌と共済組合の家族向け医療保険・生命保険のパンフレットが並べられてるんだ。婚姻届抜きで……」
もう春になり暖かい日が差
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