第107話 まっとうな軍人
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が多くなればなるほど収益が上がるのは当たり前の話。
フェザーンとしては損切という選択肢もあるが、本来求めていた利益を得る為には投資ファンドに出資し、生産設備増強の『手伝い』をする必要がある。特許の期限は五〇年。
だがサンプルを手にした以上、同盟軍開発本部もその製造方法解明に力を注ぐから、一〇年以内で『自国開発技術』として生産体制を整えられるだろう。そうなればフェザーンには一銭の金も入らない。
フェザーンが独自に資本を出してダミー会社を作って製造販売することもできるが、その場合は軍事物資納入資格の為に徹底的な査察が行われる。それは文字通り時間と金の無駄だ。
ただ原作通りであればあと一〇年もすれば、金髪の孺子が銀河統一して自由惑星同盟という国家自体が滅び去っているのでどうでもいいことになっているかもしれないが、そこまでグラズノフに言ってやる筋合いはない。
「行儀よくお付き合いできれば、その次の世代の装甲材が出るまでに七〇億ディナールは儲かりますよ?」
「三五年かけてだろう……おそらく」
三五年後にお互い国があるといいですね、と喉まで出かかったが、俺は何も言わず笑顔で首を横に傾けると、グラズノフは舌打ちをする。
「その絵図はちゃんと形になるんでしょうな?」
「それはオネーギン氏が請求額のゼロを二つ消していただければ、間違いなく」
「わかりました。早急にSRSB社様に訂正した書類をお持ちに上がります。中佐には事前にご連絡いたします」
そう言ってソファから立ち上がったグラズノフに、俺も立ち上がって手を伸ばすと、心底嫌そうな目付きで俺の右手と顔を見比べてから、その手を取った。
「ちなみにその新会社から幾らキックバックを貰うつもりですかな?」
来た時と同じ苦労人の笑顔を浮かべつつ、ギチギチと爺様以上ディディエ中将以下の『親密心』が込められた握手をしながら、グラズノフは俺に向かって聞いてくる。
「何度も繰り返すようで申し訳ないのですが、私は『まっとうな』軍人ですよ?」
俺も腕の血管が浮き上がる位の親密心で握り返しつつ、理想的高級青年士官の笑顔を浮かべて応えると、笑顔を浮かべたままのグラズノフの蟀谷がピクピクと動いてから返してきた。
「いきなり三〇億ディナールもの大金を動かせる軍人は、決して『まっとうな』軍人ではないんですよ。金にはうるさい私の故郷でも、ね」
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